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ヒカゲシビレタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2018年11月21日

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ヒカゲシビレタケ(日陰痺茸、学名:Psilocybe argentipes)とは、モエギタケ科シビレタケ属に属するキノコの一種。

食べると幻覚症状をきたす幻覚菌で、いわゆるマジックマッシュルームの一種である。現在では毒キノコの扱い。

日本ではマジックマッシュルームを使用して犯罪、騒動などを引き起こし社会問題となり、2002年には「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」が改正された。これにより本種は麻薬原料植物に指定され、採取するだけでも罰せられてしまう。

特徴

春〜秋にかけて、庭園、公園、道端、林地などに発生し、日陰のある場所に出てくることが多い。

傘は初め円錐形、のち釣鐘型に開いていく。表面は湿った場所では暗褐色で乾くと黄土色〜淡褐色となる。

ヒダは初め灰褐色、のち紫褐色となり、柄に対して直生〜上生し、幅狭く密。

柄は傘とほぼ同色で、下部は初め繊維状の糸菌に覆われているが、やがて白いだんだら模様となる。

柄や傘は傷つけると青変するが、これは殆どのシビレタケ属に共通する特徴である。土臭く、味も非常に不味いので、仮に毒性がなくとも食用にはならない。

胞子紋は紫褐色。胞子は卵形で、大きさは6〜7.5×4〜4.5µm程となる。

毒成分

含まれる毒素はインドールアルカロイドの一種である「シロシビン(Psilocybin)」で、幻覚症状を起こす原因物質となる。

これは中枢神経にある伝達物質であるセロトニンに構造が似ており、セロトニン受容体に作用して幻覚、精神錯乱を引き起こすと考えられている。熱に対して強く、加熱しても殆ど分解されない。

日本ではシロシビン、またはシロシンを含有するシビレタケ属、ヒカゲタケ属、アイゾメヒカゲタケ属など、ヒカゲシビレタケも含めて計13種類のキノコが採取の規制されている取り締まり対象菌となっている。

その一方でシロシビンを含むワカクサタケ、ビロードベニヒダタケ、チャツムタケなどや同じインドールアルカロイドの「ブフォテニン」を含むコテングタケは何故か規制対象外である。

ただし、これらも含めて後に規制対象に入る可能性もあるので注意が必要。

中毒症状

摂取すると30分〜1時間ほどで悪寒、吐き気、ふらつき、めまいなどの症状を経て興奮、幻覚、幻聴、精神錯乱、麻痺、手足の痺れを引き起こす。本種は日本のマジックマッシュルームの中でもシロシビン含有率が高く、2〜3本ほど食べると中毒するとされる。

本種の毒性で死に至ることはほぼないが、幼児や高齢者が大量に摂取すると痙攣、昏睡などの重症に陥る場合もあり、海外ではシロシビンを最も多量に含むPsilocybe cyanescensを食べた女児が死亡した例が報告されている。

中毒例・トリップ体験

中毒例は平成元年〜22年にかけて、少なくとも20件、60名の中毒者が記録されており、これは毒キノコの中でも多い部類に入る。

マジックマッシュルームによるトリップ(麻薬による幻覚症状)は徐々に出てくるものではなく、初期症状(吐き気、めまいなど)を経て突然くるという。感覚としては急に別の世界にワープするようなものか。

幻覚症状に関しては様々な情報があるが、具体的な例を挙げると「目を開けたらお花畑の真ん中にいた」「鏡を見ると体がスライムの様にとろけていた」「居るはずのない鬼ごっこの子供を呼びながら探し回った」「自分の腕が伸びた」「カマキリが柴犬ほどの大きさに見えた」「『神』のような存在と対話した」など、トリップ体験はその人の精神状態によって異なる。

いずれにせよ、間違っても面白半分で食べようしないことが重要である。時に暴力、犯罪、自殺など最悪の事態を抱きかねないからだ。

余談

🍄現在では採取が規制されているマジックマッシュルームだが、近年にインペリアル・カレッジ・ロンドンが研究により重症なうつ病を和らげる効果があることが判明された。10年以上うつ病を患っていた患者にシロシビンを投与したところ、わずか数カ月でうつ病が改善されたという。これは小さな規模で行われた実験なので、素人がうつ病改善のために食べようなどとは思わないほうが良いだろう。

🍄ヒカゲシビレタケによる食中毒ではないが、海外ではある種のマジックマッシュルームと間違えてヒメアジロガサを食べ死亡した例が報告されている。毒キノコと間違え毒キノコを食べるとは、これはいかに。

🍄東方公式漫画の一つである東方三月精では、三妖精たちが団子をヒカゲシビレタケと同様に幻覚性のキノコであるジンガサタケ(陣笠茸)にすり替えるという話が存在する。そのお話では三妖精がすり替えた後、更に氷の妖精が氷団子にすり替え、持ち帰って食べた氷精が一晩中、幻覚と幻聴に悩まされ、幕を閉じた。めでたしめでたし 


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ウラベニイグチの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2023年6月25日(画像はWikipediaより)

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ウラベニイグチ(裏紅猪口、学名:Rubroboletus satanas)とは、イグチ目イグチ科ルブロボレトゥス属のキノコ。赤い管口と柄が特徴である。

かつてはヤマドリタケ属であったが、後にルブロボレトゥス属に編入された。

主にヨーロッパなどに生息するキノコの一種で、毒キノコとしても有名。種小名の「satanas(サタナス)」は文字通り悪魔の意味を持ち、それにちなんで通称「悪魔のイグチ」とも呼ばれる。

特徴

夏〜初秋にかけて、主にブナ、シイ、カシなどの広葉樹林の地上に発生する。

傘は怪20〜30cmと大型で、初め半球型、のちまんじゅう形からほぼ平らに開く、表面は汚灰白色でややビロード状。

管孔は初め黄色、のち赤色になり、成熟するとオレンジ色となる。

柄は太いこん棒状、表面は赤色だが、上部は黄色であり、上部〜中部にかけて網目模様が見られる。

肉は白黄色で不快な臭いがあり、空気に触れると青変する。

胞子は楕円形、大きさは11〜15×5〜7μm程となる。

毒成分

タンパク性毒成分の「ボレサチン」を含んでいる。

これはドクヤマドリの毒成分であるボレベニンと高い相同性を持ち、ボレベニンに近い毒性を示す。

ごく微量にムスカリンも含むが、ムスカリン中毒を引き起こすほどの量ではない。

中毒症状

症状は摂取してから数時間ほどで現れ、激しい下痢、腹痛、嘔吐、血便などの症状を起こし、特に生で食べた場合は重度の胃腸系症状に至ってしまうとされる。

ただし食欲がそそられない色合いと不快臭からか、中毒例はほとんど報告されていない。

過去にこのキノコによる死亡例があったとされるが、詳細は不明。

余談

🍄このキノコはかつて、ヨーロッパの一部地域で食用にされていたという話がある。毒成分は水溶性なのか、長時間煮込むことで毒素を出来るだけ減らして食べていたのだろうか。当然ながら加熱しても食用にすることは推奨しない。

🍄同じく管口や柄の赤いイグチでは食用のアメリカウラベニイロガワリがある。その一方、猛毒菌であるバライロウラベニイロガワリも存在する。本種とは近縁関係にあり、同様に激しい胃腸系中毒を起こす。


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【猛毒】シロタマゴテングタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2016年12月8日(画像はWikipediaより)

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シロタマゴテングタケ(白卵天狗茸、学名:Amanita verna)とは、テングタケテングタケ属に属するキノコの一種。全体が純白で覆われた姿が特徴である。

日本ではドクツルタケタマゴテングタケと並び猛毒キノコ御三家の一角として知られ、ヨーロッパにおいてはタマゴテングタケに続いて最も危険な毒キノコの一つとして恐れられている。

秋田県では「イチコロ」という地方名もあり、国内ではあまり知られていないことだが、本種はドクツルタケと同様「破壊の天使」の異名を持っている。

特徴

夏〜秋にかけて、針葉樹林、広葉樹林の地上など、低地〜高地を問わずに発生する。

傘は初め卵型、のちまんじゅう形から中高の平らに開く。表面は白色で平滑、湿時は粘性を持つ。縁に条線はなく、KOH(水酸化カリウム溶液)を垂らしても変色しない。

ヒダも白色、柄に対して離生し、幅広く密。

柄も白色で、表面は平滑。上部には膜質のツバを持ち、基部には袋状のツボを持つ。

胞子は類球形、大きさは9〜11×7〜9μm程となる。

その形態はタマゴテングタケと比較すると小型、白い点以外では違いはほぼ見られず、タマゴテングタケの白色変種ではないかという見解もなされているが、定かでない。

類似種

よく似たキノコとしてドクツルタケ、シロコタマゴテングタケ(毒?)などが存在し、類縁関係は薄いがシロマツタケモドキ(食)、シロオオハラタケ(不食)なども挙げられる。

ドクツルタケはより大型、柄の表面にササクレがある、KOHを垂らすと黄変するなどの違いが見られる。

シロコタマゴテングタケはコタマゴテングタケ(毒)がほぼ純白になったものである。本種とは非常によく似ているが、ツバの位置やツボの特徴に違いが見られる。

シロマツタケモドキの形態はマツタケの白色版のようなもので、肉質がしっかりしており、判別は容易な方だろうか。

シロオオハラタケは一見すると似ているが草地、芝生、林縁に発生することが多く、傘、柄を傷つけると黄変する点や、ヒダが成長するに従い灰紅色→黒褐色に変わっていくなど、違いが多いので判別はそれほど難しくない。

毒成分

アマトキシン類、ファロトキシン類、溶血性タンパクなどを含む。特にアマトキシン類はテングタケ類を代表する猛毒成分として知られ、熱を通しても分解されない。

ファロトキシン類、溶血性タンパクなどは殆ど中毒の原因になることはないので、実質の毒成分はアマトキシン類のみと考えてよい。

中毒症状

アマトキシン類が主成分なので、タマゴテングタケ、ドクツルタケとほぼ同じ症状を起こす。

具体的に書くと、摂取すると6〜24時間後にコレラ様の激しい腹痛、下痢、嘔吐などの症状を起こすが、1日程度で回復する。

だが、それから数日をかけて肝臓、腎臓の細胞が少しずつ破壊されていき、肝・腎機能障害による黄疸、肝臓肥大などをきたす。最悪の場合は昏睡、呼吸困難または肝不全、腎不全が進行して死に至るという。

このキノコに対する解毒剤は存在せず、治療法は早期の胃洗浄、発症した後の対処は活性炭の投与、および下剤(D-ソルビトール)の投与、十二指腸チューブによる胆汁の吸引除去などだが、深刻な場合は肝移植が必要となる。

やや小型のキノコなので、致死量(本数)はドクツルタケに比べてやや多いと思われる。

中毒例

平成元年〜22年にかけて、少なくとも7件の中毒例、20名の中毒者が報告されており、うち4名が死亡している。

この中毒者数は毒キノコを種別に分けるとテングタケ類では3番目に多い数値であるが、2000年以降からは殆ど中毒例は報告されていない。

余談

🍄本種は今関六也博士の「毒きのこ番付」においては、ドクツルタケとともに「横綱」とされたことから「横綱級の毒きのこ」として紹介されることもある。

🍄種小名の「verna」とは春を意味しており、ヨーロッパでは春にも発生することから来ている。けして春のように穏やかな気持ちで逝けるからという由来ではないのでご注意願いたい。というか上記の症状からして穏やかではない。

🍄本種と同じく白色の猛毒キノコはドクツルタケとその近縁種、フクロツルタケタマシロオニタケ、シロトマヤタケ、国内未記録ではAmanita bisporigeraTrogia venenataなど、意外にも多くの種類が知られている。この事から素人は安易に白いキノコに手を出すことは避けるべきだろう。

🍄本種とは反対色となるクロタマゴテングタケが存在するが、小型種、猛毒菌という本種と同じ特徴を持ち合わせている。「白と黒!二つ合わせてタマゴテングタケ姉妹!」・・・なんてネタは残念ながら特に無いようだ。

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テングタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2016年11月10日

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テングタケ(天狗茸、学名:Amanita pantherina)とは、ハラタケ目テングタケテングタケ属に属するキノコ。無論、毒キノコである。

傘の表面が豹柄(ひょうがら)に似ていることから、地方名として「ヒョウタケ」とも呼ばれることがあり、種小名の一部である「panther(パンサー)にも豹の意味を持つ。

ハエトリタケ」という地方名もあるが、これはハエに対して強力な殺虫効果を持った毒成分を含むことからきている。その毒成分は強い旨味成分でもあるが、詳しくは後述。

特徴

夏〜秋にかけて、アカマツ、トウヒなどの針葉樹林、ブナ、コナラなどの広葉樹林の地上に発生する。

傘は4〜25cm、初め半球形でのち平らに開く。表面は灰褐色〜オリーブ褐色で、白色のイボが付着しており、縁には条線が

ヒダは白色で、絵に対して離生し、幅が狭く

柄は白色で、表面は小鱗片〜ささくれ状となり、上部には白色で膜質のツバがある。基部は球根状に膨らみ、ツボの名残がえり状に付着することが

胞子は広楕円形で、大きさは9.5〜12×7〜9程となる。

類似種

よく似たキノコとしてイボテングタケ(毒)、テングタケダマシ(毒)、ガンタケ(注)などがよく挙げられる。

イボテングタケは非常に大型で、柄のツバがとれやすい、基部にあるツボの名残りが何重かの環状になるといった違いがあるが、個体差もあるので、確実に同定するとなれば顕微鏡観察が必要となる。

テングタケダマシは本種よりも小型で、傘の角錐形に尖ったイボなどで区別できる。

ガンタケは傘に条線がなく、柄が淡い赤褐色を帯びており、肉を傷つけると変色する点で容易に区別できる。

毒成分

主毒成分はイボテン酸・ムシモールだが、その他にも中枢神経毒のスチゾロビン酸、副交感神経を刺激させるムスカリン類、不飽和アミノ酸であるアリルグリシン・プロパルギルグリシン、微量ながら猛毒成分のアマトキシン類など様々な毒素を含んでいる。

これらを全て説明すると長くなるのでイボテン酸・ムシモールはベニテングタケムスカリンオオキヌハダトマヤタケ、アリルグリシン・プロパルギルグリシンコテングタケモドキ、アマトキシン類はタマゴテングタケの記事をそれぞれのリンク先で参照してもらいたい。

スチゾロビン酸に関してはドクササコに含まれる毒成分の一つでもあるが、中毒の原因物質かどうかは定かでない。

中毒症状

摂取すると30〜2時間ほどで症状が現れる。眠気、めまい、悪寒、吐き気などから始まり、下痢、嘔吐などの胃腸系中毒起こす。さらに中枢神経系に作用して精神錯乱、運動失調、興奮、抑鬱、痙攣などの症状を起こし、時に幻覚を見ることがある。

様々な種類の毒素を含むので、多量に食べるとムスカリン中毒(流涎、発汗、縮瞳など)に加え、重症な場合は昏睡、呼吸困難など、摂取量が多いほど症状は複雑になってくる。

本種はイボテン酸を最も多量に含む種とされており、毒性はベニテングタケよりもずっと高いと思って良い(ついでにイボテングタケと比べても毒性が高いと思われる)。

中毒例

近縁種のベニテングタケ知名度に押され気味だが、実は中毒例の多いキノコの一つでもある。

日本における中毒件数は平成元年〜22年にかけて、少なくも39件、患者は60名が報告される。これは国内での毒キノコ中毒を種別に分けると5番目に多い数値である。

特にここ十年ではツキヨタケクサウラベニタケ続いて3番目に中毒件数が多く、今だに三大誤食キノコ扱いであるカキシメジも上回っている。当然ながらテングタケ類では最も多い。古くは死亡例もあるという。

また、本種による食中毒はどういう訳か北海道の割合が高く、県内では最も中毒者の多い毒キノコの一つとして恐れられている。

実録・毒キノコ喰ってみたテングタケの中毒記、貴重な資料なので見てもらいたい。

この他にも面白半分で1本を火も通さずに生で食べるというバカ猛者もおり、幻覚、精神錯乱などが5時間ほど続き、嘔吐が2日間にわたって続いたとされる。

実は美味

本種の毒性がベニテングタケよりも高いのはもうご存知の通り、イボテン酸の含有量も10倍とされる。これが何を意味するかと言えば、本種は極めて美味いキノコということである。

イボテン酸は毒成分でありながらグルタミン酸の何十倍もの旨味を持つ成分でもあり、これを含むベニテングタケはとても美味いことで知られる。つまり、ベニテングタケグルタミン酸より遥かに強い旨味を持ち、テングタケは更にその旨味成分が何倍も含有している訳だ。

ここまでいくと味が想像つかないが、無理に表現するとグルタミン酸ナトリウムを原料とした「味の素」の旨味が超凝縮されたものだろうか。いずれにせよ極上の美味であることは間違いないだろう。

だが旨味=毒である以上、味が深まるほど食後の苦しみも深まるので、下手すれば「死ぬほど美味しい」が文字通りの意味で起こりかねない。まさに禁忌のグルメである。

どうしても食べたい場合はベニテングタケと同様、半年近く塩蔵をすれば毒抜きが可能だが、同時に旨味も大幅に失ってしまう。椎茸に味の素を大量にかければ近い味になるかもしれないが、衛生的に考えておすすめできない。

余談

🍄本種はイボテングタケとは非常によく似た形状をしており、当時この2種は同種として扱われていた。正式に独立されたのは2002年と比較的最近で、イボテングタケとして新種記載されたのもこの時である。

🍄猛毒のアマトキシン類を微量に含むのは上記に述べたが、本種によるアマトキシン中毒で死に至ったケースは皆無。仮に相当な量を食べたとしても、短時間で症状が現れるムスカリン中毒で先に死亡する可能性が高く、重症まで数日かかるアマトキシン中毒に至ることはないだろう。

🍄そもそもテングタケ類の「テング」という名はどのような由来で付けられたのか、キノコ好きなら一度は疑問に抱いたことだろう。これに関しては様々な説がある。

1.人を中毒させて殺す恐ろしいきのこから天狗を想像して。

2.傘の表面の赤や茶色を赤い天狗の顔の色に見立てた。

3.天狗が履いている一本歯の高下駄から柄の長いきのこを総称したとも考えられる。

4.天狗が現れそうな森や林に発生した。

山と渓谷社 「きのこの語源・方言辞典」(奥沢康正 奥沢正紀 著)より

明確な由来はハッキリしないので、ご自分の想像にお任せしたい。


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ウスキテングタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2016年10月18日

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ウスキテングタケ(薄黄天狗茸、学名:Amanita orientogemmata)とは、テングタケ科のテングタケ属に属するキノコの一種である。純粋な黄色ではなく、淡い黄色を帯びているのが特徴。

テングタケ科という時点でお分かりだろうが、毒キノコの一種でもある。元々は「A.gemmata」という学名であったが、とある理由で変更された。詳しくは後述の余談で。

特徴

夏〜秋にかけて、主にシイ、カシ、コナラなどの広葉樹林、時にアカマツが混じる雑木林の地上に発生する。日本以外の東アジア(韓国、中国)や北アメリカでも確認されている。

傘は淡黄色で粘性があり、表面に白色のイボが付着しているが、取れやすい。縁には条線がある。

ヒダは白色で、柄に対して離生し、やや幅狭く密。

柄は帯白色〜淡黄色、やや綿質のやわらかい鱗片に覆われ、時にだんだら模様を表すことがある。中部には膜質で白色のツバがあるが、脱落しやすい。

胞子は広惰円形〜楕円形で、大きさは7.5〜9.5×6〜7µm程となる。

類似種

よく似たキノコとしてヒメコガネツルタケ(毒)、ベニテングタケ(毒)などがある。

ヒメコガネツルタケはより小型で傘の周辺にハッキリとした条線があり、柄にツバがない点で区別できる。

ベニテングタケは傘が赤色だが、場合によって黄色を帯びることがある。色以外の違いとしては本種に比べやや大型、傘の縁に条線がほぼ見られない、表面のイボが取れにくい、柄のツバがより上部にあるなどの点で区別が可能。

毒成分

イボテン酸、ムシモール、スチゾロビン酸、スチゾロビニン酸、溶血性タンパクなど、さまざまな毒成分を含む。

イボテン酸、ムシモールに関してはベニテングタケの記事を参照してもらいたい。

中毒症状

含まれる毒成分からすると、おそらくベニテングタケと同じ消化系、神経系などの症状が主で、場合によっては幻覚をきたす可能性もある。

「日本の毒きのこ」では以下のような症状が記されている。

「軽いムスカリン中毒のように、発汗、意識混濁などを起こすが1時間ほどで回復する。また嘔吐、下痢などの胃腸系の症状も現れるが2〜3日ほどで回復する。」

……とのことだ。
毒性はベニテングタケよりも高いとされており、北米では死亡例があるという。

余談

🍄もともと本種の学名として使用されていたA.gemmataとは、主にヨーロッパ、アメリカなどで見られるキノコの一種で、当時はこれと同種として扱われていたようだ。
のちに日本産ものはA.gemmataと異なるものと判明して独立種として認められ、それに従い学名はA.orientogemmataに変更された。「orient」はラテン語で「東洋」の意味がある。

この事からA.gemmataは以降、本種によく似た別種という扱いになっている。ちなみにA.gemmataは海外では猛毒キノコとされ、本種よりも毒性が高いと思われる。

🍄本種は本州以南で広く分布しており、テングタケ類ではよく見られる種類の一つだが、その割には知名度が低く、名前が挙げられることも少ない。もしや黄色というカラー自体が人に印象を薄くさせているのだろうか。黄色はいらない子?それは無い

🍄国内では本種による中毒例が過去に一件だけ記録されている。だが詳細は不明なので、別に得をするような情報ではない。まさに余談


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ネズミシメジの特徴・毒性など

最終更新日:2023年7月27日(画像はWikipediaより)

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ネズミシメジ(鼠占地、学名:Tricholoma virgatum)とは、キシメジ科キシメジ属に分類されるキノコ。灰色で中央の尖った傘が特徴。毒キノコとして知られる。

外見が食用のシモフリシメジに似ており、しばしば誤食されるようだ。

特徴

秋、主にマツ、モミなどの針葉樹林の地上に発生し、時にブナ林から発生することもある。

傘は径4〜8cmで、初め円錐形で中央は突出しており、のち中央は突出したまま中高の平らに開く。表面は灰色の地に灰黒色の放射状繊維紋がある。

ヒダは初め白色、のち少々の灰白色を帯びる、柄に対して湾生し、やや幅狭く密。

柄は太く上下同大〜こん棒状、表面は白色で、繊維状の模様が見られる。

肉は白色、独特の苦味や辛味を持っている。

胞子は広楕円形で、大きさは、6〜7.5×4.5〜5.5μm程となる。

類似種

良く似たキノコとしてシモフリシメジ、アイシメジ(食用)などが挙げられる。

シモフリシメジは傘の色の違いや苦味を持たない点、ヒダと柄がクリーム色を帯びるなどの特徴で区別できる。

アイシメジは本種ほどではないが、僅かに苦味を持ち、ヒダの周辺に黄色を帯びる点で区別できる。

毒性

摂取すると30分〜3時間ほどで腹痛、下痢、嘔吐などの胃腸系中毒を起こす。ひどい時は脱水、ショック症状に陥るが、毒性はあまり強くないと思われる。

中毒例は平成元年〜22年にかけて、4件と14名の中毒者が報告されているが、死亡例は報告されていない。

余談

🍄ネズミシメジという和名は灰色の傘や、中央の尖った形状がネズミを連想させることから来たと思われる。

🍄種小名の「virgatum」はラテン語で「縞模様」を意味し、縞模様にも見える傘の放射状繊維が由来とされる。

🍄毒成分は現在のところ不明だが、トランス-2-ノネナールインドール類などの成分が単離されている。インドール類は本種の特徴である辛味や苦味の成分と考えられている。

🍄本種は有毒であるが、同時に強い苦味、辛味があるため、どちらにせよ食用には適さない。味は最悪だが、意外にも良い香りがするらしい。ぶっちゃけ誰得な情報である。

 

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スギヒラタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2016年9月20日(画像はWikipediaより)

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スギヒラタケ(杉平茸、学名:Pleurocybella porrigens)とは、ホウライタケ科スギヒラタケ属に属するキノコの一種。有毒として知られる。和名の由来は、スギの木から生え、ヒラタケ形であることから来ている。

スギヒラタケ属はかつて一属一種であったが、近年から「タカネスギヒラタケ(仮称、食毒不明)」が新たに発見されており、胞子の特徴が異なる。

味や香りもよいキノコで、一か所の発生で大量に取れることもあり、東北や北陸を中心に美味な食菌として親しまれてきた。2004年の事件がくるまでは…

特徴

秋、主にスギなどの針葉樹の古い切り株や倒木に重なって発生する。北半球温帯以北に広く分布する。

傘は怪2〜6cm、初め円形で縁部は内側に巻かれており、のち平らな扇形に開き、周辺が波打つことがある。表面は白色で、時に古くなると黄色を帯び、粘性は無い。
ヒダは白色で、垂生し、幅狭く密。
本種には柄と呼ばれるものはないが、基部に白い短毛(糸菌)が見られる。
肉は薄く、シャキシャキとした食感があり、独特の香りや風味を持つという。

胞子紋は白色。胞子は楕円形〜類球形で、大きさは5.5〜6.5×4.5〜5.5程となる。

2004年の食中毒事件

上記に述べた通り、本種は元々食用として扱われていた。一部の地域では加工して缶詰にしたものが販売され、人工栽培の研究もされていたほど食菌としての人気が高かった。

事件が起きたのは2004年の秋、主に東北、北陸地方で腎臓に障害を持った人が原因不明の急性脳症を引き起こす事例が次々と報告されたのだ。患者の共通点はスギヒラタケを食べていたという点のみであり、秋を過ぎると患者が出なくなったことから本種が毒キノコである疑いが強まった。

この年の中毒例は秋田、山形、新潟県などを中心に、9県で報告され、中毒者は59名、そのうち17名が死亡。まさに大惨事である。これは新聞でも報じられ、今まで当たり前の様に食べられていたキノコが突然の有毒化という、過去に例のない衝撃的なニュースとなった。

毒成分

過去に何度か毒成分の研究が行われているが、中毒の原因物質は明らかになっていない。

ヒラタケやマイタケなど、他の食菌には含まれていない脂肪酸類、異常アミノ酸類、レクチン、アジリジン誘導体などの成分が抽出されている。

その他にシアン化水素(青酸ガス)を含むが、急性脳症との関連は薄い。アジリジン誘導体はグリア細胞(神経膠細胞)に対して毒性を示し、原因物質の有力候補となる。

マウス動物実験では90度で30分加熱したスギヒラタケの成分を抽出し、これをマウスに対し腹腔内投与、経口投与したところ、致死性を示すことが報告されており、加熱しても消えない毒素を含んでいるのは確かだろう。

中毒症状

症状は摂取してからおよそ数日から一カ月という長い潜伏期間を経て起こす。

ふらつき、下肢の脱力、構音障害などの運動障害に加え、麻痺や全身性の痙攣,意識障害、原因不明の急性脳症を経て死に至る。毒キノコとして典型的な下痢、嘔吐などの症状は確認されていない。

必ずしも症状が出るとは限らない。食べた人が発症した割合は不明だが、腎機能が低下している人は高確率で発症している。

おそらく健康体であれば代謝して無効化できるが、腎障害を抱えている場合は代謝できず、濃度が高まり発症するものと思われる。

健常者は必ずしも発症しないとは限らず、腎機能が正常な20歳代の死亡例も記録されている。

中毒事故の原因

なぜこのような事態が起きたのか、原因としていくつかの説がある。

一つは「突然変異」による有毒化。キノコとは言わば木や土壌などの有機物を吸収して成長する菌類。それぞれの種類に応じて適した環境に生息するが、猛毒であれ弱毒であれ地域や環境の違いによって毒の強弱に差がでるのは、ごく自然なことでもある。

実際、ニガクリタケは発生環境によって苦みや毒性の強弱が激しい。一般的に有毒として知られるカキシメジも松林に生えるものは無毒とされる。

以上のことから変異による説が出るのも無理はないが、少し考えてもらいたい。中毒例が一部の地域のみに集中していれば十分に筋が通るが、広い範囲で報告されている点に疑問が出る。

仮に突然変異を起こしていたとすれば、2003年冬〜2004年秋の間に、何らかの変異で有毒化し、既存種を遥かに上回る繁殖力を持ったスギヒラタケの菌が発生して、勢力図を塗り替えるほど繁殖したという事になる。

可能性は0とは言い切れないものの、あまり現実的ではないだろう。

もう一つは「元々から毒キノコだった」説。食べてから発症までの潜伏期間は他のキノコに比べてかなり遅く、健康体であれば発症することも少ない。

何よりスギヒラタケ=美味な食菌というイメージが定着していただけに、誰も食中毒の原因だと疑わなかったのだろう。ではなぜ2004年になって突然中毒者が相次いできたのか、という疑問が出てくる。

話しは少々キノコからズレるが、当時流行したSARS(サーズ)をご存じだろうか。SARSは主に中国などのアジアで猛威を振るった感染症の一種である。

これが大きな問題となっていた事をきっかけに、2003年10月から感染症法が改正されたが、その際に急性脳症が全数把握対象疾患に指定された。

つまり、変わったのはスギヒラタケではなく方式。急性脳症の報告が義務付けられたことにより、翌年(2004年)の秋になって初めてスギヒラタケと急性脳症の関連が明らかになったのではというものである。

その他にも採取地域の汚染、化学物質の付着、細菌・ウイルス、酸性雨によるアルミニウムの溶出など、様々な説が寄せられていたが、元々から毒キノコというのが最も有力である。いずれも仮説すぎず、明確には分かっていない。

余談

🍄本種は美しい白色から海外において「天使の翼(angel wing)」とも呼ばれている。例の事件やアレのことを思うと悪魔にしか思えないが。

🍄スギ林は殆どキノコが発生しない環境として知られ、スギ材が分解されにくいこと、スギと共生関係を持つキノコが少ないなどの理由がある。見られる種類は限られており、スギヒラタケは当時、スギ林に発生する代表的な食菌であったが、例の事件によって食菌の代表はスギエダタケ(食)に変わった。

🍄本種と同様、腎障害を背負うことで発症する食品に「スターフルーツ」というものがある。同じく脳症を引き起こす可能性があると言われるが、主な症状、発症までの潜伏期間などは異なる。近年になり原因物質(カラムボキシン)も判明している。ただ日本において中毒例は報告されておらず、腎機能がどうこうよりは多量に食べる方が問題なのかもしれない。


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