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【猛毒】ドクササコの毒成分・中毒症状・治療法など

最終更新日:2023年5月20日

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ドクササコ(毒笹子、学名:Paralepistopsis acromelalga)とは、ハラタケ目キシメジ科パラレピストプシス属に属するキノコの一種。和名の由来は笹薮に生え、毒性を持つことから来たと思われる。

猛毒キノコの一つとして有名だが、人を死に至らしめるような毒性を持っている訳ではない。正確に言えば、死なない程度に苦しみ続ける毒キノコである。その恐るべき症状から、最も食べたくない毒キノコと語る人も多い。

長い間、カヤタケ属として扱われていたが、最近になって新しく設立されたパラレピストプシス属に変更されたようだ。

特徴

主に秋、竹林や笹薮・広葉樹林・カラマツ林などに群生する。かつて日本特産と考えられてきたが、韓国にもあるという。

傘は大きさが径3〜10cmほどで、初め中央が凹んだまんじゅう形、のち開いて漏斗型に窪むが、縁は内側へ撒くことが多い。表面は橙褐色〜茶褐色、平滑で乾燥すると光沢をあらわす。

ヒダは黄褐色で、柄に対して長く垂生し、幅が狭く密。

柄は傘と同色かやや淡色、繊維質で縦に裂けやすく、基部は白色で綿毛状の菌糸に覆われる。

肉は白色で、特に味や匂いはない。

胞子は楕円形〜卵形で、大きさは3〜4×2.3〜3μm程となる。

これといって顕著な特徴が無く、間違えやすい食用キノコとしてカヤタケ、ナラタケ、アカハツ、チチタケなどがあり、これらと間違え誤食されることも多い。

毒成分

ドクササコの毒成分として最初に単離されたのは、ヌクレオシドに属するクリチジン。その他にもアクロメリン酸、スチゾロビン酸、スチゾロビニン酸、異常アミノ酸など様々な成分を含む。

特にアクロメリン酸は強い毒性を持ち、マウスに対する致死性が報告されている。クリチジンも同様に致死性が確認されているが、この二つが中毒を起こす原因物質かどうかは明らかになっていない。

中毒症状 

ドクササコの中毒症状は他の毒キノコとは大きく異なる。

摂取すると目の異物感や軽い吐き気を経て数日後、手足の先・鼻先・陰茎など末端部が赤く腫れ上がり、激しい激痛が生じ、いわゆる末端紅痛症をきたす。その痛みは焼いた火箸で刺された様な強烈な痛みだという。

さらに恐ろしいことに、この灼熱感や激痛は一ヶ月以上続くとされる。痛みは朝、夜も関係なく続き、寝るに寝れない。痛みによって10日連続の不眠例もある。

症状は他にも水ぶくれ、末梢部の壊死・脱落など。

また、摂食から発症までの潜伏期間は1〜7日と遅いので、発症してもこのキノコが原因と特定できないケースもある。

中毒例・死亡例

平成元年〜22年にかけて、少なくとも50件と109名の中毒者が記録されている。これは毒キノコによる食中毒を種別に分けた場合、4番目に多い数値である。特に近年では中毒者が減少傾向にあるカキシメジを上回っている。

本種の有毒成分による死亡例は稀だが、激痛を緩和するために手足を水に浸し続けた結果、皮膚の水潤・剥離などにより、二次的に感染症などを起こし、死亡した例がある。

他にも、激痛から逃れるための自殺や、24時間続く激痛によって寝るに寝れず、体力消耗により、衰弱死した例もある。

旧制第四高等学校(現:金沢大学)の市村塘教授によって新種記載される以前も数多くの中毒者が報告されているが、その頃は原因不明の症状として扱われ、秋の風土病とも言われていた。

治療法

確実に症状を軽減する有効な治療法はない。

鎮痛薬のアスピリンは無効、モルヒネもほとんど効果がなく、硬膜外神経ブロックが有効とされるが確実に効果が有るとは限らない。

これを「死なないだけマシ」と思うべきか、「死んだ方がマシ」と思うかは自身の判断に委ねるとしよう。だが筆者は何十年と続く長い人生の中で、たった一ヶ月の苦しみから逃れるために人生を切り捨てたくはない。というかまず食べたくないが

発症率・重症化率

恐るべき毒性を持つドクササコだが、実は他の代表的な毒キノコに比べて発症率が低いという事実がある。

厚生労働省の2000年~2015年にかけて発生した食中毒のデータでも摂食者のうち患者は6割程度、毒性が弱いと言われるカキシメジでも摂食者に対する患者の割合はこれよりずっと高い。1993年の新潟県でドクササコによる起きた中毒例でも4人で食べて発症したのは。大量に食べた1人のみ。

また、仮に発症しても軽症で済む場合もある。問題は「軽症」がどの程度なのか、という事だが、参考になりそうなのが2016年12月に兵庫県で起きたドクササコによる食中毒。

80代の女性と60代の息子が10本のドクササコ採取して11月29日に煮物で食べ、二人とも発症。女性は入院して、息子も自宅療養中と12月6日に発表された。注目したいのは「自宅療養」。

いかなる鎮痛剤も通用しないドクササコは自宅だと氷水で冷やすぐらいしか痛みを和らげる手段がない、それもドクササコの危険性が明らかになっている現代において二次感染のリスクを考えれば推奨できるものではない。

しかも息子は発症時期的に最も痛みが強くなる期間である、それでも自宅療養というのは、病院で治療を継続させるほどの痛みではないということ。これがドクササコの「軽症」なのだろう。

もしかしたら結構な量を食べない限り激痛に至る症状は出ないのかもしれない。

余談

🍄本種と同様の毒性を示すキノコとしてParalepistopsis amoenolensがあり、本種と同じくアクロメリン酸類を含むことが報告されている。やや小型で、本種と比べ食べてから症状が出るまでの潜伏期が短い。日本では未記録。

🍄中毒症状として紹介した肢端紅痛症は、日本では殆ど見られない原因不明の希少難病として知られ、症状は軽症のまま何年も続く場合もあれば、完全に機能不全になるほど重症になる場合もあるという。自然毒によって肢端紅痛症をきたすのはドクササコ及びP.amoenolensのみ報告される。

🍄忍者ギャグ漫画の落第忍者乱太郎では、登場する城の名前がキノコ由来のものが多く、その中には「ドクササコ」という名前の城が登場する。ただし毒キノコとしてのドクササコとは一切関係が無いので詳細は省かせていただく。


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