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【猛毒】コレラタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2023年11月8日

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コレラタケ(虎列剌茸、学名:Galerina fasciculata)とは、ヒメノガステル科ケコガサタケ属に属するキノコの一種。その名前からも分かるように、非常に危険な毒キノコである。

旧名はドクアジロガサ(毒網代傘)であったが、「アジロガサ」の意味がよく分からない、名前から猛毒菌の印象が薄いなどの理由と、高い毒性と感染症の「コレラ」に似た症状を示すことから、その危険性を喚起するためコレラタケに改名された。

本種は以前「フウセンタケ科」に属していたが、近年から再編が進み、ケコガサタケ属のキノコは「ヒメノガステル科」に変更された。

特徴

秋のやや遅くに、スギなどの朽木や古いおがくず、またはゴミ捨て場などに単生〜群生する。

傘は小型〜中型で、始めまんじゅう形、のちほぼ平らに開くが、中央が盛り上がることがある。表面は平滑で、湿ったときは暗にっけい色で、縁には条線があり、乾くと中央部から明るい淡黄色となる。

ヒダは始めクリーム色、のちにっけい色となり、縁は微粉状。柄に対して直正し、やや幅が狭く密。

柄は細長く中空で、表面は淡黄土色〜汚褐色。上部には不完全な膜質のツバがある。

胞子は褐色、形は卵形〜楕円形で、表面はイボに覆われており、大きさは6.5〜8.5×4〜5程となる。

類似する食菌

よく似た食用キノコとしてセンボンイチメガサ、ナラタケ、エノキタケ、ナメコなどが挙げられる。

本種は形・色ともに地味な上、ツキヨタケのように特有の特徴を持たない。見分けるには一つ一つのキノコの特徴をしっかりと覚えていくしかないだろう。

十分な知識を持っていれば判別は容易だが、センボンイチメガサに関しては特に形態が酷似しており、個体によっては肉眼での判別が殆ど不可能となってしまう。

この場合、正確な同定をするには顕微鏡で胞子の形を確認する必須がある。センボンイチメガサの胞子は本種と違い表面が平滑なので、判別はいくらか楽になるだろう。そこまでして食べる必要があるかはさておいて。

その他、近縁種としてヒメアジロガサというキノコもあるが、本種と同じく猛毒なので注意が必要。一部では名前をヒメコレラタケにすべきでは、という声もある。

毒成分

毒成分は猛毒として知られるアマトキシン類を含む。この成分は熱に対しても強く、一般的な加熱調理程度では分解されない。

同様にアマトキシン類を含むキノコはドクツルタケタマゴテングタケなどのテングタケ科が主だが、ケコガサタケ属にもいくつか含まれる。

中毒症状

摂取すると10〜24時間後にコレラの様な激しい下痢、腹痛、嘔吐などを引き起こすが、症状は1日ほどで収まる。

だが数日後に腎臓、肝臓の細胞の破壊され、機能障害による肝臓肥大、胃腸出血などを引き起こし、最悪の場合は腎不全、劇症肝炎によって死に至る。

治療法は基本的に対処療法のみで、早期(出来れば摂取後10時間以内)に胃の洗浄、または血液透析など。それでも駄目なときは臓器移植にさえ及ぶことがある。

猛毒だが、致死量(本数)はドクツルタケに比べて少ないと思われる。

中毒例・死亡事故

本種による死亡事故が初めて報告されたのは1959年11月13日、東京都府中市である。

自宅裏の栗の木陰の湿気の多い土の上に生えていたコレラタケを採取し、同日の夕方でうどんつゆに入れて家族5人で食べたところ、翌朝8時から11時にかけて全員が嘔吐、下痢、発熱、痙攣などの症状を起こし、12歳の子供は症状が特に激しく、17日6時頃に死亡した。

これ以降もいくつかコレラタケによる中毒例が報告されている。

1964年10月には石川県金沢市で3人が中毒。同年11月には長野県で6人が中毒し、そのうち2人が死亡。更に1969年11月には神奈川県で6人が中毒、うち1人が死亡している。

群馬県では1986年の11月2日に5歳の園児(女子)が友人である6歳の小1女子とおままごとをしていた最中に自宅裏庭で生えていたコレラタケを見つけて採取。調理室で偶然ガスレンジに置いたまま油の入っていた鍋で加熱。

2人で食べたところ、翌日の朝に園児が発症、医師の治療を受けるも体調悪化により11月6日に入院。12日ほどで退院したが、完治までは約一カ月を要したという。小1女子は何ともなかったらしい。

長野県では1970年〜1994年にかけて4件の中毒例が報告されており、中毒者は11人、そのうち1人が死亡している。

更に令和1年となる2019年にも秋田県で中毒事故が発生。10月20日湯沢市の70代女性が自宅裏にある山林でコレラタケを採取(オニナラタケと間違えたらしい)

3日後、女性はコレラタケをみそ汁にして40代息子や孫と家族4人で食べ、うち3人が下痢や嘔吐を起こし病院で治療。息子は軽症だったので通院、入院した他2人も快方に向かった。

それから3年後の2022年、新潟県上越市コレラタケによる食中毒が発生した。11月5日、自宅近くに生えていたキノコをナラタケと判断して採取。

これを夕方キノコ汁にして家族5人で食べたところ、翌日の朝6時ごろに全員が腹痛や下痢を訴えて2人は病院へ。その後は重症化することなく回復していった。

で、味は?

一つ気にかかることがある。コレラタケっておいしいの?

中毒者の多い毒キノコは意外と美味しいことで有名だが、本種は美味しいか不味いか否かに関する情報は殆どない。明確な情報ではないが一応載せておく。

苦味を持つが、美味しいとのこと。

余談

🍄旧名ドクアジロガサとは1974年に命名されたものであり、それ以前に起きた食中毒では、当時まだ詳細不明のキノコ中毒という扱いだった。

「アジロ(網代)」とはひのき・竹を薄く細く削って、斜め、または縦横に編んだもので、これで作られた網代笠を連想させることから、このような名称が付いたと思われる。

🍄新たに名づけられた「コレラ」という名は世界的大流行した感染症としても有名である。日本でも明治時代に流行したことが知られており、その当時の死亡率は60〜70%を超えていたとされる(現在では適切な対処によって1〜2%程度に下げられている)。

症状は激しい下痢、嘔吐を引き起こす点でコレラタケと類似するが、コレラの死因は脱水症状が主であることに対し、コレラタケは細胞破壊による機能障害が原因なので、根本的な毒性は大きく異なる。

🍄画像検索してみると分かるが、本種の画像は調べてもよく似た食菌や近縁種ばかりが出てくる。正確に本種と同定するには胞子の検鏡が必要なので「これがコレラタケです」と明確に答えられるような写真は殆どないと思って良い。


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