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【猛毒】タマゴテングタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2023年7月5日

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タマゴテングタケ(卵天狗茸、学名:Amanita phalloides)とは、ハラタケ目テングタケテングタケ属に属するキノコ。

極めて強い毒性を持ち、ドクツルタケシロタマゴテングタケと並ぶ猛毒キノコ御三家のひとつだが、これら二つと比べて本種は日本国内での発生は稀で、中毒例も少ない。

世界的には有名な猛毒キノコの一つで、特に発生量の多いヨーロッパでは最も危険な毒キノコの一つとして恐れられており、「死の帽子(death cap)」の異名を持っている。

あまり知られていないが、タマゴテングタケ一本の個体に含まれる致死性の毒成分の量はドクツルタケを上回り、猛毒キノコ御三家の中では最も毒性が強い。

特徴

夏〜秋にかけて、主にブナやミズナラなどの広葉樹林の地上に発生し、時に針葉樹林に発生する。日本では主に北海道で見られ、それ以外では岩手、秋田、山形県などで発生が確認されている。

傘は始めまんじゅう形、のちほぼ平らに開く。表面はオリーブ色〜帯褐オリーブ色で、しばしばかすり模様をあらわし、縁に条線はない。

ヒダは白色で、柄に対して離生し、幅が狭く密。

柄は白色だが、オリーブ色を帯びることがあり、表面は小鱗片〜ささくれ状となっている。柄の上部には白色で膜質のツバがあり、基部には大きな袋状のツボがある。

類似するキノコ

よく似たキノコとしてキタマゴタケ(食)、タマゴタケモドキ(猛毒)などがある。

キタマゴタケは縁に条線があり、ヒダ、ツバが黄色を帯びている点で区別できるが、個体差もあるため安易に手を出すのはかなり危険。

タマゴタケモドキは本種と比べてやや小型で、全体的にあまりオリーブ色を帯びないといった違いがあるが、正確な同定をするには胞子の検鏡を行う必要がある。

タマゴテングタケモドキ(毒)というキノコもあり、名前から本種の近縁種のような印象を受けるが、形態的にはあまり似ておらず、実際のところタマゴタケに近い仲間である。

毒成分

含まれる毒成分は「α-アマニチン (α-amanitin)」。8つのアミノ酸が結合した環状ペプチドである。

α-アマニチンはいくつか類似の化合物(β-アマニチン、γ-アマニチン、ε-アマニチンなど)が存在し、これらはα-アマニチンも含めて一群に「アマトキシン類 (amatoxins)」と呼ばれる。

この毒素は遅効性としても有名で、摂取してから10時間以内に発症することは少なく、症状が現われるまで24時間ほど掛かることもあるという。

更に恐ろしいのはアマトキシンの代表的な毒性ともいえるタンパク質合成の阻害RNAポリメラーゼIIに結合してタンパク質の合成に必要なmRNAの合成反応を止めてしまう。これがどのような症状につながるかは後述の中毒症状を参照。

熱に対しても安定で、加熱調理をしても殆ど分解されることはない。

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画像はα-アマニチンの構造式

その他の毒成分としてファロトキシン類、ムスカリン類、溶血性タンパク質などが含まれるが、中毒に至るほどの量は含まれておらず、中毒の本体はアマトキシン類となる。

中毒症状

症状は2段階に分けて起こる。
摂取すると6〜24時間後にコレラ様の激しい腹痛、下痢、嘔吐などの症状を起こす。この時点で処置を怠ると場合によって脱水状態、重症では低血圧、電解質異常、低血糖などに陥ってしまう。

通常は1~2日程度で症状は一旦収まり、大概の人はこれで安心するが、実際は単なる偽りの回復期に過ぎない。体内ではアマトキシンのタンパク質合成阻害により、実際は内臓の破壊が徐々に進んでいる。

それから4〜7日ほどで、第2段階の症状が現われる。
肝臓や腎臓の細胞が破壊され、肝・腎機能障害による黄疸や肝臓肥大、肝性脳症、胃腸からの出血、時に合併症による頭蓋内圧、頭蓋内出血、膵臓炎を引き起こす。

ここまで重症化すれば自力の回復は不可能に等しく、昏睡、呼吸困難または腎不全、劇症肝炎などにより確実に死に至らしめる。回復しても後遺症が残ることもあるという。

中毒例

日本では中毒例はあまりない一方、海外では被害は多く、特にヨーロッパでは毒キノコによる中毒死の90%以上を埋める

念のために言うと、向こうで脅威となる猛毒菌は本種だけではない。例えば…

ヨーロッパでも猛威を振るうドクツルタケやシロタマゴテングタケ、猛毒成分含むいくつかのキツネノカラカサ属、多数の死者を出したドクフウセンタケと日本未記録の猛毒フウセンタケなど。

それらを含めてもタマゴテングタケが毒キノコによる死者の大半を埋めると考えれば、どれだけ被害の多い猛毒菌なのか分かるだろう。

過去にはポーランドの小学校で給食にキタマゴタケと間違え採取されたタマゴテングタケが混入して、児童31人が亡くなった例がある。これは世界でも最悪レベルのキノコ中毒事故の一つである。

更にドクツルタケでは噂としてよく話題にあがる「一家全滅」も、タマゴテングタケは噂ではなく実際に例がある。ネタではなく…

治療法

主な治療法はまず早期の胃洗浄だが、時間が立つにつれて毒が生体内に吸収されてしまい、発症する頃にはこの治療を行っても殆ど効果が無いのが欠点となる。

解毒剤はまだ十分に確立されていないが、「シリビニン」の静脈内投与は比較的有効とされ、アマトキシンが肝細胞に吸収されるのを防ぎ、RNAポリメラーゼを刺激してRNAの合成を増加させる効果が報告されている。

アマトキシンによるグルタチオンの低下を防ぐために使用される「N-アセチルシステイン」もグルタチオン前駆体として機能するため、こちらも有効と言われる。

シリビニン、N-アセチルシステインの使用は最も効果的な治療法とされ、海外ではしばしば治療に用いられるという。

その他、毒素の吸収または再吸収を防ぐための「活性炭」投与。下剤(D-ソルビトールの投与、「十二指腸チューブ」による胆汁の吸引除去などが有効とされる。血液透析も治療に使用されるが、時に効果を示すことはあっても全体的には不十分。

肝不全によって既に重症化している場合、死を避ける手段はほぼ肝移植に限られる。

20世紀半ばまでのヨーロッパでは、タマゴテングタケによる死亡率はおよそ60〜70%程とされていたが、医療の進歩によって現在は20%以下となっている。

患者も摂取後36時間以内に適切治療な受けることができれば、後遺症なく完全に回復することができる。とにかく食べたキノコの特定と早期治療が大事なのだ。

バスチアン法

上記に述べた治療法の他、フランスの医師バスチアン氏が提案した「バスチアン法(the Bastien method)」というものがある。

この治療法を発見した1974年、バスチアン氏は自らの人体実験で致死量を遥かに超える4本のタマゴテングタケを食べて治療法を実行

その方法とは、朝・晩にビタミンC注射、ネオマイシン、ニフロキサジド、ジヒドロストレプトマイシンを一日6錠服用、二日目以降は発酵乳の摂取、最初の二日目はすりつぶしたニンジンを摂取、症状が激しい場合はメトクロプラミドを筋肉注射する、というものだ。不安しかない

効果のメカニズムは不明だが、驚くほどの成果を示してバスチアン氏は下痢の症状だけで済んだという。

他の研究者からは論理的な治療法ではないと批判されたが、1981年までのフランスの毒物センターではタマゴテングタケを食べてしまった50人にこの治療法を行ったところ、46人の命が助かったという報告がある。

とは言え一般的な処置ではなく、現在のフランスでこの治療法が行われているのかは不明。

余談

🍄かつて古代ローマで本種が暗殺に使われたという訓話がある。暴君として知られたローマ皇帝ネロの母親であるアグリッピーナが、息子を皇帝にするために夫のクラウディウスと始めとした政敵たちを、セイヨウタマゴタケ料理にタマゴテングタケを混ぜて毒殺したという。

🍄本種はヒダに濃硫酸を垂らすと淡い赤紫色に変わるという他のキノコには無い特有の特徴が存在する。だから胞子の検鏡なんてしなくても見分けはこれで簡単♪…だが冷静に考えてキノコ狩りに濃硫酸を持ち歩く人なんてほぼいないだろう。

🍄本種には毒成分以外にも抗体の分子を持つことが知られている。抗毒活性を持つ「アンタマニド(antamanide)」という成分を含み、これを動物に投与したところ、アマトキシンを与えても中毒しなかった。キノコが毒とその防御物質を持つのは何とも不思議だが、人間が食べれば勿論、命の保証は無い。

🍄本種の種小名であるphalloidesには「陰茎・男根 (phallus) に似た (-oides) 」という意味がある。なんだあのでっかいモノ…いかん、危ない危ない危ない…。これが文字通りの意味ならタマゴテングタケは人類が滅びるまで卑猥な種小名を抱えなければならないという悲劇…。だがPhallusはスッポンタケ属を意味する言葉でもあるので、単にスッポンタケに似ているという事なのかもしれない。


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