タマゴタケモドキ(卵茸擬、学名:Amanita subjunquillea)とは、テングタケ科テングタケ属に属するキノコ。色は黄色だが、「モドキ」の付かない本家タマゴタケ(食)は赤色であり、その近縁種である黄色のキタマゴタケ(食)と比較されることが多い。
タマゴタケは毒菌だらけのテングタケ類の中では、唯一美味な食菌として親しまれているが、モドキの方は有毒……位ならまだマシだった。恐ろしい事にドクツルタケにさえ匹敵しかねない程の猛毒キノコの一つであり、注意を要する。
和名を聞くとタマゴタケの近縁種のような印象を受けるが、この名前に対して不満の声が多い。詳しくは後述の余談で。
特徴
夏〜秋にかけて、広葉樹林や針葉樹林の地上に発生する。日本では主に北海道で見られ、国外では中国、韓国などに分布するが、世界的には東アジアのごく一部でしか見られない希少種。
中型で、傘の表面はくすんだ橙黄色〜淡黄色。地色より濃色の繊維状片鱗に覆われており、縁に条線はない。
ヒダは白色で柄に対して離生し、やや幅狭く密。
柄は淡黄色で、上部には白色で膜質のツバがあり、ツバより下は黄色の繊維状片鱗に覆われる。基部には白色膜質で袋状のツボを持つ。
類似種
よく似たキノコとしてキタマゴタケ、タマゴテングタケ(猛毒)などが挙げられる。
キタマゴタケは一見すると見分けが付かないが、傘の縁にあるハッキリとした条線や、ヒダ、ツバが黄色を帯びているなどの違いがあり、じっくり見比べれば似ても似つかぬ形態なのが分かる。
タマゴテングタケは本種と比べて大型だが、正確な同定には顕微鏡で胞子の大きさや形を確認する必要がある。
毒成分・中毒症状
毒成分はアマトキシン類を含んでおり、ドクツルタケやタマゴテングタケと同様の中毒症状を起こす。
具体的な症状としては、食べると10時間〜24時間ほどでコレラ様の激しい嘔吐、腹痛、下痢を引き起こす。症状は一度回復するが、数日を経て第二段階の症状が現れる。
その後は容赦なしと言わんばかりに肝臓、腎臓の細胞が破壊され、肝臓肥大や胃腸出血を引き起こし、最悪の場合は劇症肝炎や腎不全などにより死に至る。
・・・というものだ。その毒性はあらゆる猛毒キノコと比べても一切の引けを取らず、死亡率もかなり高い。
中毒例
本種による中毒例は平成元年〜30年にかけて4件が報告されており、殆どが北海道で発生したものである。
1件目は1989年9月に北海道で発生。一家3名(父・母・息子)がこのキノコを食べて下痢、嘔吐などの症状を起こし、キノコ中毒とは気づかないまま一度回復するが、5日後に意識低下を訴え病院に運ばれ、母、息子は肝不全および腎不全により死亡した。
2件目は2006年9月の北海道で、実に17年ぶりになる本種の食中毒が発生した。食べたのは60代の男性で死亡が確認されている。
3件目は2016年9月に北海道で発生し、本種による中毒例は丁度10年ぶりとなる。70代の男性が近所の山林で採ったこのキノコを食べたところ、胃腸系の中毒を起こし病院に入院。その後は退院したと思われる。
また、平成元年以来では、本種による中毒事故で死者が出なかったのは今回が始めてという驚愕の事実もある。
4件目は2018日8月の山梨県で発生。国内では北海道以外による本種の食中毒はこれが初である。患者は60代の女性で、23日の正午ごろに家族が採取したキノコを炒めて食べた(他の家族は食べなかった)。
すると下痢や嘔吐などの症状が現れ、地元の病院に緊急搬送されたが、25日には肝障害などの症状が悪化し、中北保健所管の病院に転院された。その後は回復したと思われる。
患者は計6名、うち死者は3名となる。中毒者こそ少ないものの、現時点では死亡率が5割、極めて強い毒性が伺えるだろう。
余談
🍄本種の和名は「タマゴタケモドキ」だが、この和名に対して疑問が出ている。と言うもの本種は形態や含まれる毒成分から判断すると、タマゴタケよりも同じ猛毒菌であるタマゴテングタケに近い仲間であるからだ。黄色っぽい、ヒダが白色、縁に条線がないという特徴は見事に一致している。
この事から本来は「タマゴテングタケモドキ」に命名するべきだったと言われているが、現状では手遅れだったようでタマゴテングタケモドキは既に別種として存在する。しかも形態はタマゴテングタケには殆ど似ておらず、本種とは反対にタマゴタケの近縁種である。もう名前をそれぞれ取り換えればいいんじゃないかな……
🍄あまり知られていないが、本種には白色の変種が存在する。名前はアケボノドクツルタケ(A.subjunquillea var)で、低地に発生する小型のドクツルタケの一つである。タマゴタケモドキ白色種とも呼ばれ、ほぼ間違いなく猛毒キノコと考えてよい。
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