突然だが、最も毒性が強い毒キノコと言えば何を思い浮かべるだろうか。
一般的に最強の猛毒キノコとしてよく名前が挙がるのは「カエンタケ」。致死量わずか3gしかなく、一口食べれば中毒症状のデパート、生き残っても後遺症が残ってしまう。
ただ毒が強いという一点に限れば、カエンタケを超える可能性のある毒キノコに二つ候補がある。
一つ目は「ミカワクロアミアシイグチ」。毒性の強度を測る研究段階でどれだけ毒を薄めてもマウスが死んでしまったゆえに、致死量は不明。もはや測定できないほど毒性が高いということだろう。
ミカワクロアミアシイグチの詳細記事はこちらから↓
二つ目の毒キノコは極めて情報が少なく、現時点で属名、種小名、和名いずれも不明。
写真さえ無いので形態的特徴も曖昧。謎だらけの猛毒菌である。
なので本記事ではこのキノコに「ドクシロハツ」と仮称を付けて紹介していただく。
ドクシロハツとは?
まず初めに、ドクシロハツとは、早い話「シロハツ」によく似た毒キノコである。
新種として報告されたのは今から20年以上前。2001年8月28日に読売新聞でこのような記事が飛びだした。
【龍ノ口山で出会ったキノコ】
https://townweb.e-okayamacity.jp/shouda/topics36/topics38kinoko/topics38.htm
「新種毒キノコ、少量かじって吐き出しても口内が腫れあがり、全身のしびれ、衰弱など強い中毒症状を起こす新種の毒キノコが熊本県で発見された。
日本の毒キノコは、かじって吐き出すだけなら中毒しないとされてきたが、このキノコは”毒味”がかえって危険をまねくことになり、国立科学博物館植物研究部(茨城県)は、キノコ狩りシーズンを前に注意を呼びかけている。
このキノコは、食用にされる『シロハツ』に色や形がよく似ている。中略、生えていたのは熊本県の熊本、菊池市などにあるツブラジイの多い温帯林で、口にした二人は少量かじって吐き出しただけで唇や舌の感覚がなくなり、十日間も衰弱状態が続いた。」
…とのこと。記事の文章は以上のサイトから引用させていただいた。
既にかなり凶悪な毒性を感じられるが。残念ながらこれ以外の情報は殆ど無いため、限られた情報を元に考察していく。
報告された地域
採取されたのはツブラジイ(ブナ科シイ属)の多い林内だが、実際は熊本に限らず九州の広い範囲で自生している可能性が高い。九州以外の地域で見られるかは不明。
九州ではキノコ狩りの文化があまり盛んではなく、それゆえキノコ中毒もさほど報告されていない。それもドクシロハツの情報が不足している要因の一つなのだろうか。
形態的特徴
形態に関する唯一の情報はシロハツに似ている……ただそれだけ。
まず類似種のシロハツの特徴についておさらいしよう。
(画像はシロハツ、毒はないが食用には不向き)
シロハツ(Russula delica)はベニタケ科、ベニタケ属のキノコで全体的に白色。殆どの個体は多少の差はあるが大半は土に埋まっている。
傘は最大16cm程度まで育ち、始めまんじゅう型、のち扁平型~漏斗型になるが、傘の縁は内側に巻き込む。表面は白色だが、土の汚れで土色や黄土色っぽくなっていることも多い。
柄は白色で、付け根部分にやや青みを帯び、短く頑丈。ヒダは垂生で、幅狭く密。味は辛苦く、無毒だが食不適。
ここまで説明したが、オオイチョウタケのようにシロハツによく似たキシメジ科のキノコがあるので、シロハツに似ていたからと言って必ずしもドクシロハツがベニタケ類であるとは限らないが、あくまで憶測なので本種がベニタケ類であることを前提に話を進めたい。
ドクシロハツの毒性
ドクシロハツは何と言ってもその驚愕的な毒性の高さである。
ベニタケ類の猛毒は現時点においてニセクロハツしかなく、それでも飲み込まない限り症状が出るほどの毒性ではない。
口に含むだけで症状が出てくる毒キノコというのは現時点で命名されているのに限ると上記に述べた猛毒のカエンタケとミカワクロアミアシイグチぐらいである。
しかもドクシロハツは10日間も衰弱状態になってしまうほどだ。カエンタケだって口に含むだけで酷い口内炎になる。ミカワクロアミアシイグチだって加熱しても口にすれば舌がしびれる。それでもかじって吐き出すだけならそれだけで済む。
この視点から見るともしやカエンタケよりも毒性が高いのでは…?という高鳴りも出てくるが、熊本の件以降、ドクシロハツに関する情報は10年以上途絶え、このキノコの存在自体に疑問が出ていた。
そして完全に忘れ去られていた頃、2015年にTwitterでとある呟きが出てきた。
うちの地域でキノコに多分一番詳しい方が、シロハツに似た種をかじってすぐ吐き出したのに、だいぶ長い間味覚がわからなくなり、痺れが続いた事があります。「大丈夫」と真似するのは時には命懸けな事を知っておいた方が吉。 https://t.co/63gB8OBF32
— taki (@homic315) 2015年11月21日
そう、もう一つの中毒例である。
シロハツに似た種であること、かじってすぐ吐き出したのに味覚がなくなり痺れが続いた。これは読売新聞で記載されたドクシロハツの症状とよく似ており、シロハツ似の種に強烈な猛毒キノコが存在する可能性は、やはり高い。
もしかしたら情報が表に出ていないだけで、ドクシロハツの中毒例は思った以上にあるのかもしれない。
…以上がこれまで確認したドクシロハツに関する情報の全てである。
どうして名称がないのか
ここまで毒性の強そうなキノコなのになんで名前がないの?と思われるかもしれないが、実は珍しい事でもない。
例えばコレラタケやニセクロハツなどの猛毒キノコは命名される以前も食中毒による死亡事故が確認されていたが、その頃は詳細不明の食中毒、という扱いだった。
他にも食中毒を訴え食べ残ったキノコを鑑定してもらったら、まだ日本で未発見の毒キノコだったという例もある(のちにヒョウモンクロシメジと名付けられた)
今では見つかっただけで大騒ぎのカエンタケでさえ20年ほど前のキノコ酒事件以前までは食毒不明だったのだ。
これらよりも発見が遅れていると考えれば、ドクシロハツも将来的に新たな情報が出てくる可能性は十分にあるだろう。
この記事を更新するのは、それが明らかになってからにしたい。