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【猛毒】ドクツルタケの毒成分・中毒症状・見分け方など

最終更新日:2023年8月27日

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ドクツルタケ(毒鶴茸、Amanita virosa)とは、ハラタケ目テングタケテングタケ属に分類されるキノコ。

全体が純白。まるで地上に降りた天使のような色合いをしているが、その姿に惑わされてはいけない。

これは最も危険な猛毒キノコの一つとされ、海外では「破壊の天使(Destroying Angel)」 の異名を持って恐れられている。

日本でも「食べた人がやたら死んでゆく」のを由来に一部地域で「ヤタラタケ」とも呼ばれ、その他「シロコドク」「テッポウタケ」などの地方名がある。

本種はタマゴテングタケシロタマゴテングタケと並ぶ猛毒キノコ御三家の一つでも知られ、キノコによる中毒死の大半をこの3種が埋めるという。

特徴

初夏〜秋にかけて、広葉樹林や針葉樹林の地上に発生する。

中型〜大型で、傘、ヒダ、柄、ツバ、ツボ、肉と、全てが純白となっている。

傘は初め卵形、のち中高の平らに開く。表面は平滑で、湿っているときはやや粘性があり、縁に条線はない。

ヒダは柄に対して離生し、幅が狭く密。

柄は表面がササクレ状で、柄の上部には膜質のツバがあり、基部には大きな袋状のツボがある。

胞子は類球形、大きさは直径7〜10µmほどで、色は無く表面は平滑。

高地、低地とそれぞれ発生する個体には特徴に違いが見られ、これらを別種と指摘する者も多い。詳しくは後述。

KOHをたらした時の変色

本種は傘に「KOH(水酸化カリウム)」の溶液をたらすと黄色に変わる特徴を持つ。

KOHとは、塩素とカリウムの化合物である塩化カリウムの水溶液を電解して作られる水酸化物。主に洗浄剤や石鹸の材料に利用されるが、素人が扱うには危険な劇物

ドクツルタケの近縁種を区別するのに重要だが、キノコ狩りに持ち込むのは余程のマニアぐらいだろう。使用する場合も濃度2-5%程度のものに限る。

毒成分

猛毒成分「アマトキシン類」を含む。

これは8つのアミノ酸が結合した環状ペプチドで、RNAポリメラーゼIIに結合し、mRNAの合成反応を阻害。これにより肝細胞を始めとした内臓細胞に重大な障害をもたらす。

毒素は熱にも強く、煮ても焼いても食べられないという。

その他にファロトキシン類、ビロトキシン類などが含まれるが、腸では殆ど吸収されず、中毒の要因にはならない物質と言われる。

中毒症状

摂取すると6〜24時間後に激しい腹痛、下痢、嘔吐などの症状を起こし、ひどいときは脱水状態に陥るが、症状は1~2日程で収まる。

…あれ、これで終わり?

そうして表面上は元気になるが、実際は既に内臓破壊が徐々に進んでいる。

数日後、第2段階の症状が出現。

既に安心しきっていた頃、肝臓や腎臓の細胞が破壊され、肝障害による黄疸や肝臓肥大を引き起こし、時に胃腸の出血をきたす。こうなれば殆ど手遅れ。最終的には劇症肝炎、腎不全、多臓器不全によって死に至る。

また、遺体解剖によれば肝臓がスポンジ状に破壊されていたという…

致死量はたったの一本。毒性はタマゴテングタケより僅かに劣るものの、人の命を奪うには十分すぎるほどである。

中毒例

平成元年〜22年の日本における本種の中毒例は16件報告と、毒キノコとしては比較的多い部類に入り、猛毒キノコ御三家の中では最も多い数字である。

患者数は52人、うち11人が死亡。つまりほぼ5人に1人の割合で死亡しているのだ。その死亡率も医療が不十分だった時代では70%を超えるとされる。

2000年代半ば以降は毒キノコとしての一般認知度が上がったのか、中毒例は殆ど見られなくなった。

また、遡ること1951年にドクツルタケ中毒による悲惨な例がある。

60歳の母と22歳の長男がドクツルタケを食べて中毒し、母は第一段階の症状で死亡。長男は何とか治まったが、のち第二段階の症状に襲われる。

その様子の文章を以下サイトから一部引用。

毒キノコの恐ろしさ!!! - mmpoloの日記

一同ほっとしたのも束の間、夜になって再び激しい嘔吐。洗面器2杯分の真黒な血へどを吐き続け、余りの苦しさから、畳に爪を立てて這いずり回り、何度も『誰か、オレを助けてくれ!』と絶叫する。

翌日、長男は荒れ果てた畳の上で母の後を追うように死んでいったという。

シンプルにエグイ。これに尽きる。

治療法

主な治療法はまず早期の胃洗浄だが、時間が経つにつれて毒素が肝細胞に吸収されてしまうので、これだけでは不十分だろう。

解毒剤は十分に確立されていないが、候補としては…

・シリビニン

・N-アセチルシステイン

など、これらは海外では最も効果的と言われ、アマトキシン中毒の治療でしばしば用いられる。

シリビニン」は静脈内投与でアマトキシンが肝細胞に吸収されるのを防ぎ、RNAポリメラーゼを刺激してRNAの合成を増加させる効果が報告される。

N-アセチルシステイン」はアマトキシンによるグルタチオンの低下を防ぐ効果があり、グルタチオン前駆体としても機能する。その他には…

「活性炭」投与して毒素の吸収、再吸収の阻害。

「下剤(D-ソルビトール)」の投与。

「十二指腸チューブ」による胆汁の吸引除去。

…などがある。血液透析も選択肢にあるが、効果は薄いようだ。

肝不全で重症化した場合、ほぼ肝移植に手段が限られるが、そんな状態でも「血液浄化療法」でドクツルタケの重症患者を救った例がある。しかし、この治療は否定的な意見も多く、あまり推奨されない。

とにかく食べたキノコの特定と早期治療が不可欠なのだ。

一家全滅は本当にあったのか

ドクツルタケで度々見かける話題として有名なのが「一家全滅」。毒性の高さから食べた家族が全員命を落とした…なんて事があってもおかしくないだろう。

結論から言うと、そのような例は報告されていない。結局のところ噂止まりである。

この噂が広まった有力な説は、匿名掲示板でしばしばコピペされていたドクツルタケの紹介文章ではないだろうか。

その一部に書かれていたのは「必殺技は『天ぷらによる一家全滅』」。素晴らしい名言である

実際に天ぷらで一家全滅した例は記録されていないので、多分ネタ。なぜ天ぷらなのか、と言われたら炒め物や鍋よりも「天ぷらで一家全滅!」がワード的に清々しさがあったのかもしれない。

いつの日か、このコピペを転載した記事が話題となり、やがて「一家全滅は本当にあるかもしれない!」と認識が広がっていったのだろう。まさに都市伝説。

ただ一家全滅の話はこのコピペが出てくる以前から、

中国人の一家が、このキノコをお鍋にして食べ、一家全滅した事件があった

という噂がごく僅かながらあったので、大昔にはもしかしたら…。ただ中国にそういった論文はなく、今では知るすべもない。

また、本種とは別にタマゴテングタケはネタではなく実際に一家全滅した例があると言われる。ドクツルタケはまだ実例は無いが、今後起こりうる可能性がある、程度に捉えておけばよいだろう。

よく似たキノコ

類似するキノコは主に

・シロフクロタケ(食用)

シロマツタケモドキ (食用)

・シロオオハラタケ (注意)

・シロツルタケ (注意)

・シロタマゴテングタケ (猛毒)

…など、食菌や毒菌問わずいくつか存在し、これらの特徴や見分け方を述べていく。

シロフクロタケ」はヒダの色が異なり、柄にツバが無いのが主な違いだが、幼菌時は遠目で見ると人によって「ドクツルタケだ!」と騒ぐ位に見分けがつきにくい。

発生する季節や環境が違うのが幸いか。

シロマツタケモドキ」その名の通りマツタケの近縁種。特徴はシンプルに「マツタケモドキ」白色版という形態で、見慣れた人なら間違うことはあるまい。

旨味の強いキノコだが癖の強い臭いがあり、マツタケに比べ食用価値は落ちる。

シロオオハラタケ」は馬小屋、牧草地に発生するハラタケ属のキノコ。本種と同様に白色でツバを持つが、ヒダが成熟するとチョコレート色になる特徴や発生環境の違いから区別は容易。幼菌時は判別難度がやや上がる。

食用との記述もあるが、シロオオハラタケ含め多くのハラタケ属はアガリチンという毒成分を含むので、手を出さないのが無難。

シロツルタケ」はツルタケの白変種で、傘の縁部にハッキリとした条線があり、柄にツバがない特徴から見分けは容易。シロツルタケも有毒とする記述があり、食用にするのは好ましくない。

シロタマゴテングタケ」は猛毒キノコ御三家の一つで、本種と同様の毒成分を持つ。

ドクツルタケの近縁種だが、やや小型で柄にササクレがなく、傘にKOHをたらしても変色しない点から区別できる。

その他の近縁種

あまり知られていないが、本種にはシロタマゴテングタケのほか、複数の近縁種がある。

本種は当時から高地型と低地型の個体差から別種との指摘があったが、おそらく事実。本物のドクツルタケは主に高地に発生し、大型で柄には立派なささくれを持つのが特徴。

主な近縁種は

・アケボノドクツルタケ

・ニオイドクツルタケ

・フタツミドクツルタケ

・カブラドクツルタケ

…など。これらはドクツルタケ同様、アマトキシン類を含む猛毒キノコの可能性が極めて高いので注意。

いずれも肉眼での判別は難しく、正確な同定にはKOHを付けた際の変色性や、胞子の検鏡などが必要。

この記事ではこれらの特徴や見分け方を一つ一つ紹介しておく。

アケボノドクツルタケ

ドクツルタケによく似るが、より小型で傘が成長するにつれ中央が赤色を帯びていき、柄のササクレが本種と比べてやや控えめ、ツボの形が異なるなどの違いがある。

ただし、胞子が類球形で、傘がKOHで黄変する特徴は本種とまったく同じなので、子実体の形態的な特徴から判断するしかない上に、成長しても傘が殆ど白色のままの個体もあり、場合によっては同定が困難。

アケボノドクツルタケ(タマゴタケモドキ白色種)

非常にややこしいが、アケボノドクツルタケには全く同じ和名のキノコがもう一つ存在する。それは始めAmanita.sp(種小名なし)として報告されたが、日本産菌類集覧で「Amanita subjunquillea var. alba」の学名が適用された。

subjunquillea」はタマゴタケモドキと同じ種小名で「var」は変種の意味を持ち、タマゴタケモドキ白色種とも呼ばれる。

特徴はドクツルタケ同様、傘がKOHで黄変するが、より小型でササクレもあまり目立たない。低地に発生するドクツルタケの殆どがこの種とも言われ、過去の食中毒にも何割か混じっている可能性がある。

その他「A.pallidorosea」というタマゴタケモドキ白色種の酷似種が北海道で確認されるが、おそらく猛毒。

言ってしまえば、アケボノドクツルタケは分類がかなり紛らわしいのだ。

ニオイドクツルタケ

薬品のような臭いが特徴。

ドクツルタケより小型で傘がやや黄色を帯びることがあり、KOHをかけても変色せず、ツボの形もやや異なる。胞子が長楕円形。

タツミドクツルタケ

胞子が2個ずつ付いており、傘は水酸化カリウムを付けても変色しない。肉は薄い黄色、といった特徴を持つが、不明な点も多く、種小名もない。

カブラドクツルタケ

特徴としては柄の基部がカブラ状に膨らみ、異臭がするというが、発生自体が稀なのか名称以外の情報はほとんどなく、種小名も決まっていない。現在でも詳細不明のキノコ。

その他、KOHで黄変するシロタマゴテングタケの酷似種も確認されるが、名称は不明。今後さらに分類が細かくなるかもしれない。

余談

🍄本種は和名に「ドク」と付くが、学名の「Virosa」にも毒があることを意味し、キノコのほか植物でドクゼリの学名(Cicuta Virosa)にも使用されている。

🍄ドクツルタケを食べて一命を取り留めた方によると、味に関しては「むしろおいしかった」という話がある。死ぬほど美味しいとは正にこの事。

🍄とあるキノコ中毒の話。ドクツルタケを食べてしまった人が短期間に胃腸系症状を起こす毒キノコも一緒に食べていて、全部吐いて助かった、という無知が命を救った例がある。

🍄嘘か誠か、匿名掲示板にてドクツルタケを無毒化して食べる方法が記述されている。その方法を行ったところ、炊き込みご飯にして食べても何も症状が出なかった。ただし極めて危険なので、やり方は記述しない事とする。


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