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【猛毒】カエンタケの毒成分・中毒症状・対処法など

最終更新日:2022年8月12日

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カエンタケ(火炎茸、学名:Trichoderma cornu-damae)とは、、ボタンタケ目ボタンタケ科トリコデルマ属に属するキノコの1種。日本で最も有名な毒キノコの一つであり、発見されただけでも話題に上がるほどである。

その形態は燃え上がる炎の如く、まるで地獄の業火を体現したような姿をしている。超が付くほどの猛毒キノコとして知られ、他の毒キノコとは比べ物にならないほど毒性が高い。世界でも本種を上回る猛毒キノコは報告されておらず、圧倒的な毒性から殺人キノコという物騒な呼び名もある。

一般的に猛毒キノコとして知られるようになったのは比較的最近で、2000年以前のキノコ図鑑では「食毒不明」あるいは「不食」と言う扱いだった。

だが江戸時代の学者である岩崎灌園(1786〜1842年)・著、『本草図譜』によれば、「大毒ありといへり」と記されており、古くから猛毒であることを知る者はいたようだ。

特徴

夏〜秋にかけて、広葉樹林内の地上や地中に埋もれた倒木などに発生する。

日本、韓国、中国、インドネシアのジャワ島などで発生が確認され、2019年にはオーストラリアでも発見された。コスタリカでは近縁種、または同種と思わしきキノコが確認されている。

形態はシイタケやマッシュルームなどとは大きく異なるが、これでも立派なキノコである。
子実体は高さ3〜8cm、円桂形〜扇平な円桂状。しばしば上部が枝分かれしてさか状、手の指状となり、先端は丸いか尖る。

表面は初め鮮やかな赤色で光沢があるが、のち古くなると紫色〜褐色を帯びる。先端部は時に白色である。

内部は白く、硬く丈夫な肉質で、かなり苦味が強く、仮に毒が無くても食用にはならない。このキノコを食べて生存した人曰く、ジャガイモやサツマイモのような食感がするという。

カエンタケにやや似ているベニナギナタタケという食用キノコがあり、これと間違えて誤食してしまった例があるが、ベニナギナタタケは細く、肉質がもろくて崩れやすい。

それに対してカエンタケは肉質が硬く、見分けるのは容易。

毒成分

毒成分はマイコトキシンの一つであるトリコテセン類を6種類(ロリジンE、ベルカリンJ(ムコノマイシンB)、サトラトキシンHおよびそのエステル類)を含む。

本種からはサトラトキシンHのみが得られたが、菌を培養するとロリジンEやベルカリンなども生成するようになる。これらの毒素は人に対し重篤な症状を引き起こし、動物や魚、植物に対しても悪影響を及ぼす。

このトリコテセン類はかつてベトナム戦争に使用された科学兵器に酷似しており、同様の毒成分を含むキノコは他に確認されていない。

中毒症状

初めに言うと、このキノコは皮膚刺激性があり、カエンタケの汁に触れると皮膚がただれてしまう可能性がある。

基本、どんな猛毒キノコであれ触るだけなら何も問題ないが、本種のみは例外。胞子に触れるだけで症状が出るという説もある。

口に含んでしまうとひどい口内炎になるとされており、一説によると「口に入れただけでも「鈍器で後頭部を強打される」ような衝撃を感じるという。

飲み込んでしまうと、症状が現れるのは僅か10分前後。

嘔吐、腹痛、下痢などの消化器系症状に次いでめまい、手足のしびれ、40度以上の発熱、呼吸困難、肝不全、腎不全、呼吸器不全、循環器不全、小脳萎縮、意識障害、運動障害、言語障害、脳障害、粘膜の糜爛(びらん)、白血球と血小板の減少、造血機能障害など、次々と症状が現われ死に至る。

たとえ回復しても言語障害や運動障害、脱皮・脱毛などの後遺症が残るとされる。

本種の致死量は僅か3gとされ、一口で三途の川を渡るなど容易いだろう。

かつて最も毒性が高いキノコと言われていたドクツルタケの致死量が8g(1本分)であることを考えると、本種の毒性がいかに強力かが分かる。

国内の中毒例

現在、日本で確認されている中毒例は7件。

キノコらしからぬ形態や、カエンタケに類似する食用キノコがあまり無く、本種の発生自体がレアケースというのもあり、食中毒はあまり報告されていない。

特に2000年以降は毒キノコとしての知名度が大きく高まったために、国内では本種による食中毒はほぼ見られなくなった。

ここではカエンタケ、あるいはカエンタケによるものと思われる食中毒などを紹介する。

中毒例その1

1983年、山形県で激しい症状を起こした食中毒が報告されている。

カエンタケによるものと疑われるが、詳細は不明。

中毒例その2

1991年、山梨県で47歳の男性がカエンタケを僅か3cmほど天ぷらにして食べたところ、数日後に40度以上の高熱が出始めると、今度は髪の毛が抜け落ち、運動障害、言語障害などの症状が現れた。医師の診断によると小脳が萎縮していたという。

幸い死には至らず、髪の毛も伸びたが、歩行、言語の障害は1年経っても抱え続けていた。

中毒例その3

1997年10月05日、青梅市内で採取したカエンタケをバター炒めにして家族6人で食べたところ、4人はあまりの苦さに吐き出し、摂食には至らなかったが、残りの2人が摂取後30分程で嘔吐、下痢などの症状を起こした。

2人は医療機関を受診し、1人は4日間入院した。症状は嘔吐や下痢の他に発熱、頭痛、眼球血脈充血、顔面・口唇腫脹、咽頭浮腫、嗄声、呼吸困難などが報告されている。
   
その後、採取されたカエンタケをマウスに経口投与し経過観察をするも、どういう訳か毒性は示さず、この当時の中毒原因は不明であった。

症状も上記に述べたカエンタケの中毒症状と異なるので、実際はカエンタケの類似種の可能性も否定できない。

中毒例その4

1999年10月03日、新潟県見附市の温泉旅館でテーブル角にカエンタケが飾ってあった。従業員が山で珍しい赤いキノコを見つけたので飾っていたらしい。採集してから既に数日経っていたため小豆色に赤黒く変色していたという。

これを見た男性客5名が薬用キノコと勘違いし、2.5cm〜3cm程度にちぎり、ぐい飲みに入れてキノコ酒にして飲んだ。すると30分経過した頃から腹痛、下痢、悪寒、手足のしびれ等の症状が現れ、3人が重症で入院。うち一人が循環器不全により死亡した。

当然だが、飾っていたキノコを勝手に取って良いはずもなく、死者が出たとはいえ、ハッキリ言って自業自得である。この事件は新聞にも報道され、カエンタケが一般的に毒キノコとして知られるようになった。

中毒例その5

2000年、群馬県カエンタケを「ベニナギナタタケ」と勘違いし、ナスと一緒に炒めて二人で食べたところ、15分後、吐き気などの症状を訴え入院、うち一人が摂食4日後に死亡した。

中毒例その6

2020年8月27日、岩手県花巻市で奥州保健所管内の50代男性が冬虫夏草と誤ってカエンタケと思われるキノコを食べて中毒。その後入院し、快方に向かっていった。症状は舌のしびれを訴えた事しか書かれていないので、軽くかじって吐き出したものと考えられる。

その他にも小宮山勝次 著『キノコの魅力と不思議』ではカエンタケを味噌汁にして食べ中毒した話が紹介されているが、その症状は上記に述べた症状と異なることから、これも本種の類似種である可能性がある。

韓国の中毒例

日本ではあまり知られていないが、韓国では頻繁に本種による食中毒が報告されている。

間違えてしまうキノコは主に冬虫夏草。そのため食べる…というよりはカエンタケを水で煎じて飲み中毒するケースが多い(煎じるとは、薬や茶を水分に浸してよく煮ることによって、その成分を抽出すること)

中毒例その1

2008年ではカエンタケによる2人の死亡事故が記録されているが、詳細は不明

中毒例その2

2010年12月、カエンタケを口にした男性が嘔吐などの症状を訴えて入院。

2日後に退院するも、数日後に症状が悪化。髪の毛は全て抜け落ち、血液生成もほぼ停止状態に陥ってしまう。

急いでソウル病院へ運ばれ輸血を行ったが、さらに肺炎症、脳梗塞などの症状が現れ集中治療室へ。その後、1年以上に渡る入院の末に退院を果たした。

患者は一命を取り留めたが、後遺症が残り、10年経った2020年でも悩まされ外来診療を受けている。

中毒例その3

2013年7月27日の夕方7時ごろ、坡州市で採取されたカエンタケを軽く一口、味見したところ、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れ、近くの病院へ。

担当医師はキノコ中毒と推定したが、この時まだ脈拍と血圧は正常で高熱なども無く、患者は快適だと自ら陳述。

薬処方以外の措置はせず、帰宅したが症状が悪化、翌日28日午前11時頃に再び病院に搬送され、その後集中治療室で死亡が確認された。

2013年全体ではカエンタケによる中毒事故が5件報告されており、そのうち3名が死亡している。

中毒例その4

2014年、カエンタケと思われるキノコを家族三人で煎じて飲み、吐き気、頭痛、じんましんなどの症状が現れて近所の病院へ。

処方された薬を飲み、蕁麻疹はやや軽くなったが、今度は激しい脱毛が起こり始める。その後、高熱と頭痛、足に赤い斑点が生じ、歯茎の出血症状まで現れた。

髪の毛はほとんどなくなり、ご飯もまともに食べられなくない状態になってしまう。

また、原因が毒キノコと気づくのにかなりの時間を要したことや症状の類似性もあり、医師にはチェルノブイリ旅行、福島旅行にでも行ったのかと質問されてしまう。(チェルノブイリ、福島は過去に原発事故により放射線放射性物質が大量に放出され、放射線汚染地域として扱われている)

最終的に家族は全員回復して事なきを得た。

また、2015年、2016年にも本種による中毒事故が相次いで報告されている。

カエンタケを使用した「がん」の治療

信じられないかもしれないが、実は韓国ではカエンタケを使用したがんの治療法が研究されている。

韓国では相次ぐ中毒患者の治療の際に、何故かがんも一緒に治療されていたことから、がんの治療に有効ではないかという話が飛びだした。

そして韓国の大学で行われたカエンタケの毒成分研究の末、トリコテセン類の一種であるロリジンEには抗がん剤として知られる「ドキソルビシン」の500倍以上も強力ながん細胞抑制力を持つことが明らかになった。

がん患者がトリコテシンを摂取することで滞りなく分裂し続けるがん細胞を死滅させることができるという。

同時に毒性が強力すぎることもあり、がん細胞だけでなく正常な細胞も一緒に殺してしまい、少しでも量が多いと致死量に至ってしまう。

まだ実用段階とは言えないが、もし将来的にがんになったらカエンタケの成分が含まれた抗がん剤を飲むことになるかもしれない。

もちろんがんに有効だからと言って…

 

彡(゚)(゚)「がんになってもうた…せや、カエンタケ食べて治療したろ!」

 

…という行動は絶対にしてはならないのでご注意願いたい。

逆に言えばがんも殺してしまうほどの毒性なのだから。

触れると皮膚がただれるのは本当?

本種の毒性について語られる話題の一つとして「触れると皮膚がただれる」というのがあるが、実際にそういった例を聞いた人は殆どいないと思われるので、中毒者の情報や個人ブログ・SNSで実際に触ってみた方たち意見を参考に語っていく。

まずカエンタケを触っただけでただれるというのは、

結論から言うと基本的にない。

まずは本種による食中毒が起きていることから疑問を持ってほしい。もしやカエンタケを食べる直前まで毒キノコの疑いが無かったのでないか。

そのキノコがカエンタケと知らなければ、採取する時も、調理する時も、間違いないなく素手で触る。何なら危険性の高いとされる断面にも触れる。それでも何も症状が出なかったから食べるまでに至った…と考えたらどうだろう。

触っただけで炎症が起きてしまったら、すぐに危険と判断して食べるのを止めるのが普通だ。得体のしれないキノコは尚の事。

中毒者が数多く出ていること自体が、触っても皮膚がただれることが殆どないという裏付けになっているのだ。

ブログ「月刊 きのこ人」では以下のような事が書かれている

blog.goo.ne.jp

これだけ注意喚起されてる一方で、カエンタケを触って被害を受けたという報告は一件も見たことがない。これはどういうことか?注意喚起が功を奏しているからか?

もちろんそれはある。でもそれ以上に、カエンタケを触って皮膚がどうにかなることは滅多に無い、という事実がある。

実は私も自分の体で人体実験をしてみたことがある。普通に触ってても何も起きないので、業を煮やして折ったカエンタケの断面を腕にゴシゴシこすりつけてみたのだが、それでも何ともなかった。

※記事の文章を一部引用

また、ブログ「きのこびと」でも以下のようなことが書かれている

kinokobito.com

良く言われる「触っただけでも皮膚がただれる」というのは、どうかなぁ、、、と思います。
こう書かれるとみんな触らないのですが、それでも僕の周りでカエンタケを触った人で皮膚がただれた人は皆無です。
僕も当然良く触っているのですが、ウルシでは簡単にかぶれる僕でも、カエンタケでは何も起こりませんでした。

なので、触っただけでも皮膚がただれる、というのには僕的には懐疑的でしかありません。

あと、カエンタケを割って、出てきた汁に触れたらかぶれるのではないか?

という話もあるのですが、それとて試した人の話では

「汁をね、手にこすりつけたけどかぶれんかったよ!(*^^*)」

という答えでした。もちろん全ての人が同じとは限りません。どのキノコでも手に持っただけでかぶれる人もいるぐらいなので、それは人によりけりなのでしょう。

※記事の文章を一部引用


Twitterに呟かれたカエンタケを実際に触ってみた方々の体験談

 

 

注意として触っても大丈夫というのはあくまで健康な肌での話であり、肌が悪い状態(アトピー性皮膚炎など)を抱えていれば話は変わる。実際にカエンタケにさわったら一気に痒みが出てきて慌てて手洗いした、という例がある。

そのほか毎年カエンタケの断面を腕にこすりつけてかぶれた年とかぶれなかった年があった、なんて話もあるので、カエンタケの個体差にも影響に及ぼす可能性あり。

一説にはカエンタケは乾燥により毒性が弱まり、触っても炎症が起きにくくなるとも言われる。これもカエンタケの毒性強弱に関係があるかもしれない。

毒が弱まっていると言っても口に含めば水分を含み復活するので、食べてしまうと毒の強弱は無関係になる。つまり死ぬ。

過去、本種による中毒死を起こした際には、中毒者の嘔吐物に触れて手足の皮膚がただれたという情報もあるが、これは水分を多量に含んでいたからではないだろうか。

その他、研究でカエンタケの抽出した成分にふれて皮膚がかぶれた話もあるが、ほぼ100%に抽出されたカエンタケの毒成分は触ると本当に危険な可能性がある。

 

 

現状では皮膚刺激性を起こすメカニズムは明らかになっていない。

一つ確実に言えるのは直接食べなくても本種の毒性が何らかの条件を満たして作用される場合がある、ということである。

いずれにせよ「触ったら死ぬ」反対に「炎症を起こすのは完全に嘘」などという一個人の偏った意見を丸のみにしてはいけない。

また、万が一カエンタケを見つけたとき、自分が触っても大丈夫だったからと言って、他人に触ることを進めてはならない。

触った手で目を擦ると失明する、なんて説もあるので、安易に触ることはやはり推奨しない。

見つけた時の対処法

触らない・口にしない。基本的なこの二つを知っておけば問題ない。

しかし他者がキノコに無頓着ゆえ本種の存在をしらない場合は話が別だ。特に小さな子供は珍しいものを興味津々に触る。それでも食べてしまう…というのはほぼ無いと思うが…

思いもよらない事態を回避するには、自前にカエンタケの危険性を伝えるのはもちろん、本種に限らず見知らぬ昆虫や植物を素手で触らないというのは危険を回避する上で大事なことだ。

それ以外の対処法だとカエンタケを「駆除」する選択肢もある。

実際カエンタケに遭遇したとき時には、保健所に駆除を推奨する場合も多い。見つけたら連絡して発生場所を伝えれば翌日にはもう無くなっていることだろう。

ただしキノコの本体は菌糸なので、地上に出てきたカエンタケの子実体を駆除しても、その場しのぎにしかならないが…

一方でカエンタケの駆除に関して疑問や反発を訴える声も相次いでいる。

向こうから直接襲ってくることもなく、農作物を枯らすこともなく、こちらから手を出さなければ害のないカエンタケは必要以上に危険性が誇張されているのも事実。

誇張された情報により本種を過激に恐れ、その結果このキノコの駆除を徹底するような行動が広がった。はたして正しい対処法と言えるのだろうか。

危険なキノコなのは間違いないが、人によっては「触るだけで死に至る」「胞子を吸っただけで死ぬ」などの行き過ぎた認識までされている。

だからこそ正しい対処法が必要なのだ。

余談

🍄本種は元々ニクザキン科ツノタケ属(Podostroma)に属していたが、子実体が立ち上がるという点以外は種の特徴を持たない理由からボタンタケ科ボタンタケ属(Hypocrea)に変更された。その後ボタンタケ属がトリコデルマ属に統合されたため、現在の学名に至る。

🍄種小名の一部である「cornu」には「角(つの)」を意味しており、damaeには「損害・損傷を与える」という意味がある。

🍄本種は元々、あまりお目にかかれない希少種であったが、近年では発生量が増加傾向にあり、一部では大量発生して話題になったこともある。これは何らかの原因で「カシノナガキクイムシ」という害虫が増え、ナラ枯れが起きていることが理由とされる。
この害虫によって枯死した樹木から本種が好んで発生するので、これが本種の大量発生に結び付くという。

🍄本種と同様、赤色の毒キノコはアカタケ、アカヤマタケ、バライロウラベニイロガワリベニテングタケなどが知られている。その中でもバライロウラベニイロガワリは猛毒であるため注意が必要。


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