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世界の毒キノコ事情|海外にはどんな毒キノコがあるの?

毎年、秋になるとやって来るキノコシーズン、アミタケ、ウラベニホテイシメジ、コウタケ、ハツタケ、ムキタケなど、多くのキノコが食べられるが、我が国では特にマツタケが好まれる。

キノコに関する話題が増える一方、毒キノコに関する食中毒が多いのもこの時期である。他の食用キノコと誤食される事の多いツキヨタケクサウラベニタケ。猛毒キノコとして恐れられるドクツルタケ、カエンタケ。幻覚症状を引き起こすテングタケなど、数百種類の毒キノコが存在する。

そして、毒キノコに興味を持った人達は一度でも考えたことはあるのではないか。「世界にはどんな毒キノコがあるのだろうか」と。

この記事では国外にまつわる様々な毒キノコ事情や、日本未記録の毒キノコについて書いていきたい。

ヨーロッパで誤食されやすい毒キノコ

ヨーロッパではキノコの食文化がとても盛んである。

世界三大珍味の一つで有名なトリュフ。世界三大キノコの一つであるポルチーニ。世界で最も消費量の多い天然キノコであるジロール。フランスでは高級食材として重宝されるモリーユなど、様々なキノコが食される。

一方でやはり毒キノコによる中毒事故は多く。特にタマゴテングタケは最も危険な猛毒キノコの一つとして知られている。

そんな中、我が国ではウラベニホテイシメジ(食)とクサウラベニタケ(毒)が非常に誤食されやすいように、この誤食されやすい二つの食毒菌の組み合わせがヨーロッパでもあるようだ。

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それがハイイロシメジ(食)とイッポンシメジ(毒)の二つである。我が国でもイッポンシメジは自生するが、ヨーロッパでは特に中毒者が多く、その中でもハイイロシメジと誤食される例が後を絶たない。

その中毒例の多さから「裏切り者」「 キノコ好きの下剤」などとも呼ばれる。美味しいキノコを食べるはずが、下剤を食べていたなんて少々笑い話にも思えるが、食べた後の苦しみを知っている人からすればちっとも笑えないだろう。

このキノコを食べると30分〜2時間ほどで下痢、嘔吐、頭痛などの症状を起こす。けして致命的な毒性ではないが、海外では死亡例があるという。

ちなみに上の画像はイッポンシメジ。ハイイロシメジとは確かに似るが、成熟してもヒダが紅くならない点で区別ができる。

イグチ類による死亡事故。その原因は?

「イグチって毒キノコが殆どなくて結構安全だよね」そんな風に考えた人もいるだろう。

たしかにイグチは優秀な食菌ばかりが目立ち、毒キノコはあまり聞かない。ましては死亡事故なんてあるのだろうかと思うかもしれないが、実はあるのだ。

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海外ではイグチの一種である「Boletus pulcherrimus(ボレトゥス・パルチェリマズ)」による死亡事故が記録されている。我が国では発見されていないイグチである。

初めて中毒死が報告されたのは1994年のこと、とある夫婦がB.pulcherrimusを食べたところ、激しい腹痛を起こし、その後、夫が死亡した。原因は腸閉塞によるものと思われる。

その他にもオーストラリアでイグチのキノコを食べ、ムスカリン中毒をきたし死亡した例も報告されている。

我が国のイグチの方は安全かと言えばそうでもない。ミカワクロアミアシイグチ、バライロウラベニイロガワリなどの猛毒キノコが確認されており、もはやイグチ安全神話は崩壊寸前と言っても良い状態である。

猛毒キノコを食べる国

一言に毒キノコと言っても全ての毒キノコが食べられない訳では無い。一部にはお酒と一緒に食べる場合のみ発症するヒトヨタケや、長期間の塩漬けを行うことで食べられるベニテングタケなどがある。中には猛毒キノコを食べる国があるらしい。

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「シャグマアミガサタケ」をご存じだろうか。脳状のような頭部が特徴で、見た目からして猛毒臭が漂うが、実際に猛毒。いくつか死者も出ている。

そんな猛毒キノコを毒抜きしてさぞ当たり前のように食べている国が存在する。それは北欧、特にフィンランドでは珍味として親しまれ、一般的に食べられているという。

「猛毒キノコを食べるなんて信じられない!」と思うかもしれないが、猛毒魚を食べている我が国が言えた事ではないだろう。

シャグマアミガサタケの毒成分は水溶性なので、繰り返し何度も茹で溢すことで殆どの毒を除去することができる。そこまで手間をかけて食べる価値があるかは疑問だが、興味があれば試してみると良い。

缶詰も販売されているらしいが、もちろん毒抜き済み……と思いきや、毒抜きされているものと、毒抜きされていないものがあるので、油断していたら命の保証がない。

缶詰で死ぬなんて笑いものにされてしまいそうなので絶対に説明を読んでおこう。

中国人を襲う黒い悪魔

多くの種類が有毒とされるテングタケ類。猛毒キノコの上位ランカーを埋めるものこのグループである。そんなテングタケ類の中に「クロタマゴテングタケ」というキノコがある。これも猛毒キノコの一つとして知られる。

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「クロ」とは言っても全体が真っ黒ではなく、ヒダの部分は他のテングタケ類と同じ白色である。

名前の似たキノコでシロタマゴテングタケがあるが、「白と黒を合わせてタマゴテングタケ姉妹!」なんてネタは特にない。

そんな話はどうでもいいとして、このクロタマゴテングタケは中国で大勢の死者が出ているという。

具体的な中毒者数を述べると、とある海外の情報によれば、近年の中国南部では中毒者が352名、死者は79名と書かれていた。

我が国で最も危険な猛毒キノコであるドクツルタケによる死者数を遥かに上回っているというのだから驚きだ。

中毒症状はドクツルタケと同じ、摂取すると6〜24時間後にコレラ様の腹痛、下痢、嘔吐などの症状を起こすが、1日程度で回復する。

その後は肝臓や腎臓の細胞がジワリジワリと破壊されていき、やがて症状に現れ、適切な治療を行わないと肝不全、腎不全によって死に至る。

正しく黒い悪魔である。

猛毒のフウセンタケ

1950年代のポーランドで重度の腎炎を起こす病気が流行した。発症者は100人以上で、20人以上の命を奪われたという。

その謎の病気の正体は感染症でもウイルスでもない。そう毒キノコが原因だったのだ。

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そのキノコの名は「Cortinarius orellanus(コルティナリウス・オレラヌス)」。非常に高い毒性を持つキノコとして恐れられ、「フールズ・ウェブキャップ(Fool's Webcap)とも呼ばれている。

含まれる毒成分であるオレラニンは除草剤のパラコートに似た毒性を示すという。食べると、インフルエンザ様の症状が現れ、3〜14日の長い期間を経て喉の渇き、頻尿、腎臓の痛みなどの症状を起こし、適切な処置を行わないと腎不全によって死に至る。

たとえ回復しても腎障害が残ることもあり、重症であった場合、一生背負い続けなければならないという。

当時、我が国では発見されておらず、猛毒のフウセンタケは存在しないとされていたが、2011年10月13日、新潟で採取されたキノコがC.orellanusであると判明。

それに従い名付けられた和名は「ドクフウセンタケ」であった。

美味しいキノコだったはずが……なぜ毒キノコ扱いに?

極めて美味な食菌として親しまれていたキシメジとシモコシ。どんな料理にも抜群に合い、特にダシを利用した炊き込みご飯は絶品であった。

この2種が突然、猛毒キノコに変更されたという。

こどもの頃から食べていた人には信じ難い話であるが、事実である。そもそも我が国では一件も食中毒が報告されていないのに、なぜ?という感じだが、ヨーロッパでは死者を含んだ食中毒がいくつか報告されたというのだ。

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食中毒を起こしたキノコは「Tricholoma equestre(トリコローマ・エクェスト)」で、キシメジ・シモコシの近縁種だが、この2種と同種であると語る学者もいる。フランスでは優秀な食菌として食べられてきたが、数回続けて食べ続けると中毒を起こすことが分かった。

症状は含まれる毒成分が筋肉を溶かし、その溶解物が臓器に障害を与えるもので、いわゆる「横紋筋融解症」をきたす。中毒者は12名が報告され、うち3名が死亡している。

この食中毒をきっかけにT.equestreは毒キノコに分類され、キシメジとシモコシがT.equestreと同種である見解があるので、現在に至る。

しかし、我が国では食中毒がない上、中毒を起こしたキノコと同種である明確な証拠がないのだから、納得できる理論ではないだろう。

ではどうすれば良いか?そんな情報に惑わされず食べれば良いのだ。たぶん大丈夫だから。もし何があっても自己責任であるが。

雲南白い悪魔

キノコの食文化が盛んである中国。キクラゲなどが料理に良く消費され、我が国では馴染みがないが、フクロタケというキノコの栽培が盛んに行われている。一方で毒キノコによる中毒事故も絶えない。

そんな中、中国雲南省で毎年、秋になると原因不明の突然死を起こす例が発生していた。死者の多くは健康体であったという。

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原因はやはりキノコ。ホウライタケ科の一種である「Trogia venenata(トロギア・ヴェネナタ)」によるものであることが後に明らかとなった。全体的に白色で、スギヒラタケにも似ている。

単離された毒成分はアルキンを含んだ二種のアミノ酸。猛毒成分ながら実にシンプルな構造をした物質である。マウスに対しても毒性を示し、本種が突然死の原因であることは間違いなさそうだ。

このキノコによる犠牲者はなんと過去300人以上とされ、食べた後の症状は何も起きないか、軽い症状を経て死に至る。何の前触れもなく急に死が訪れ、日常活動中に突然バタリと逝ってしまうというのだ。

突然死の原因がT.venenataによるものと判明したその後、雲南省の人々にこのキノコを口にしないよう警告をした。それ以来、人々が突然死を起こすことはなくなったという。

 

……以上である。海外の毒キノコに関する情報は、検索しても思いのほか出てこないので、このような記事を作ってみた。

他にもマジックマッシュルームによる死亡事故や、国内未記録であるドクツルタケ似の猛毒キノコなどもあるが、全て紹介するとあまりにも長くなってしまうのでハブかせてもらった。

余談だが、世界で最も毒性の高いキノコはカエンタケである。やはりこれほど毒性が高いキノコは世界中を回っても本種しか例が無いようだ。