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【猛毒】Trogia venenataの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2023年8月5日

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Trogia venenata(読み方:トロギア・ヴェネナタ、和名なし)とは、ホウライタケ科クチキサカズキタケ属に分類されるキノコ。我が国では発見されておらず、中国南西部に位置する雲南省で自生が確認されている。

当時、雲南省では健康な人々が原因不明の突然死を起こす例が多発した。これは「雲南省突然死症候群」とも呼ばれ、数十年に渡って少なくとも300人以上が犠牲になったという。

2010年に毒キノコであるT.venenataが原因であることが分かり、長らく続いた原因不明の病に終止符を打った。一見すると食べられそうにも見えるが、危険性の高い猛毒キノコの一つとされる。

特徴

形態に関する情報は少ないが、画像を見る限りでは、樹上生である。全体的に白色であること。ヒダは柄に対して垂生し、幅広く疎、といったところか。

味の方は犠牲者が多い事から判断すると、特に不味いものではないのだろう。

形態はスギヒラタケに似ているが、特徴と言えるような特徴はあまりない。

毒成分

中国の研究グループはT.venenataの毒成分について調べてみた結果、アルキンを含む二種のアミノ酸(2R-アミノ-4S-ヒドロキシ-5-ヘキシン酸、2R-アミノ-5-ヘキシン酸)が単離された。

これらのアミノ酸はマウスに対して重度の低血糖を起こし、致死性も確認されている。

脂肪酸のβ酸化と糖新生を阻害することにより、血糖値の急速な減少を引き起こすとされ、このキノコによる犠牲者の血液からも同様のアミノ酸が検出されたことから、本種が突然死の原因であることが明らかになった。

中毒症状

このキノコを食べた死者のおよそ半数は間に自覚症状が出ないまま突然死に至るとされる。

ある者は突然意識を失って10分も経たず死亡が確認。ある者は昏睡状態に陥り24時間以内に死亡。ある者は眠りから目覚めないまま息絶えた。

主な自覚症状としては軽症の場合、軽いめまいや疲労感などが現れる程度だが、危険な領域だと突然死の数時間前に動悸、胸の不快感、発作などの症状が出てくることがあり、失神を何度も繰り返すケースも確認される。

重症の場合、異常な血糖値の急低下による心室頻拍、心室細動を引き起こしたのち、昏睡、急性心不全によって死に至る。

その他の症状として吐き気、腹痛、下痢、嘔吐、痙攣、尿失禁などが確認されており、突然死を起こした人々の遺体解剖では肝・肺・脾臓などのうっ血、肝臓のリンパ球浸潤、肺水腫、腎細胞・肝細胞の壊死を起こしていた事が分かっている。

本種の毒性が解明してからは雲南省の人々にこのキノコを食べないように警告がなされた。それ以降、突然死は殆ど見られなくなったという。

余談

🍄種小名の「venenata」はラテン語で有毒であることを意味しているが、本種の学名は命名規約に違反しており、今後変更される可能性がある。

🍄突然死の原因がキノコと分かるまでは腸管内で増殖するコクサッキーウイルスによってセレン欠乏症(セレン欠乏を主とする栄養障害で現れる病)を引き起こすのが原因と考えられていた。

🍄命に係わるほどの低血糖はほとんどの場合、糖尿病のような基礎疾患が原因で起こるものであり、T.venenataのような自然毒で重症の低血糖になる例はあまり知られていない。空腹時の血糖値の平常は70~100mg/dl。これが何らかの原因で50mg/dl以下になると深刻な症状に陥る危険性がある。

🍄T.venenataの毒成分であるアミノ酸は未熟なライチやアキーなどの果物に含まれる「ヒポグリシン」という毒素と類似の構造を持つ。

実際、ジャマイカで食用とされているアキーは食べ方を誤るとT.venenataと同様、重度の低血糖に陥って死に至る危険性があり、アキーの摂取によって引き起こした症状は「ジャマイカ嘔吐病」とも呼ばれる。

また、インドではライチを食べた子供たちが低血糖や急性脳症などによって突然死が多発した例もある。これはかなりの空腹状態かつ未成熟のライチを食べるという条件が重なって起きたもので、少なくとも日本でそのような例は報告されていない。ただ熟していても大量摂取で低血糖を起こすケースもあり、ライチの食べ過ぎで現れる症状は「ライチ病」とも呼ばれる。

 
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