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スギヒラタケの毒成分・中毒症状など

最終更新日:2016年9月20日(画像はWikipediaより)

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スギヒラタケ(杉平茸、学名:Pleurocybella porrigens)とは、ホウライタケ科スギヒラタケ属に属するキノコの一種。有毒として知られる。和名の由来は、スギの木から生え、ヒラタケ形であることから来ている。

スギヒラタケ属はかつて一属一種であったが、近年から「タカネスギヒラタケ(仮称、食毒不明)」が新たに発見されており、胞子の特徴が異なる。

味や香りもよいキノコで、一か所の発生で大量に取れることもあり、東北や北陸を中心に美味な食菌として親しまれてきた。2004年の事件がくるまでは…

特徴

秋、主にスギなどの針葉樹の古い切り株や倒木に重なって発生する。北半球温帯以北に広く分布する。

傘は怪2〜6cm、初め円形で縁部は内側に巻かれており、のち平らな扇形に開き、周辺が波打つことがある。表面は白色で、時に古くなると黄色を帯び、粘性は無い。
ヒダは白色で、垂生し、幅狭く密。
本種には柄と呼ばれるものはないが、基部に白い短毛(糸菌)が見られる。
肉は薄く、シャキシャキとした食感があり、独特の香りや風味を持つという。

胞子紋は白色。胞子は楕円形〜類球形で、大きさは5.5〜6.5×4.5〜5.5程となる。

2004年の食中毒事件

上記に述べた通り、本種は元々食用として扱われていた。一部の地域では加工して缶詰にしたものが販売され、人工栽培の研究もされていたほど食菌としての人気が高かった。

事件が起きたのは2004年の秋、主に東北、北陸地方で腎臓に障害を持った人が原因不明の急性脳症を引き起こす事例が次々と報告されたのだ。患者の共通点はスギヒラタケを食べていたという点のみであり、秋を過ぎると患者が出なくなったことから本種が毒キノコである疑いが強まった。

この年の中毒例は秋田、山形、新潟県などを中心に、9県で報告され、中毒者は59名、そのうち17名が死亡。まさに大惨事である。これは新聞でも報じられ、今まで当たり前の様に食べられていたキノコが突然の有毒化という、過去に例のない衝撃的なニュースとなった。

毒成分

過去に何度か毒成分の研究が行われているが、中毒の原因物質は明らかになっていない。

ヒラタケやマイタケなど、他の食菌には含まれていない脂肪酸類、異常アミノ酸類、レクチン、アジリジン誘導体などの成分が抽出されている。

その他にシアン化水素(青酸ガス)を含むが、急性脳症との関連は薄い。アジリジン誘導体はグリア細胞(神経膠細胞)に対して毒性を示し、原因物質の有力候補となる。

マウス動物実験では90度で30分加熱したスギヒラタケの成分を抽出し、これをマウスに対し腹腔内投与、経口投与したところ、致死性を示すことが報告されており、加熱しても消えない毒素を含んでいるのは確かだろう。

中毒症状

症状は摂取してからおよそ数日から一カ月という長い潜伏期間を経て起こす。

ふらつき、下肢の脱力、構音障害などの運動障害に加え、麻痺や全身性の痙攣,意識障害、原因不明の急性脳症を経て死に至る。毒キノコとして典型的な下痢、嘔吐などの症状は確認されていない。

必ずしも症状が出るとは限らない。食べた人が発症した割合は不明だが、腎機能が低下している人は高確率で発症している。

おそらく健康体であれば代謝して無効化できるが、腎障害を抱えている場合は代謝できず、濃度が高まり発症するものと思われる。

健常者は必ずしも発症しないとは限らず、腎機能が正常な20歳代の死亡例も記録されている。

中毒事故の原因

なぜこのような事態が起きたのか、原因としていくつかの説がある。

一つは「突然変異」による有毒化。キノコとは言わば木や土壌などの有機物を吸収して成長する菌類。それぞれの種類に応じて適した環境に生息するが、猛毒であれ弱毒であれ地域や環境の違いによって毒の強弱に差がでるのは、ごく自然なことでもある。

実際、ニガクリタケは発生環境によって苦みや毒性の強弱が激しい。一般的に有毒として知られるカキシメジも松林に生えるものは無毒とされる。

以上のことから変異による説が出るのも無理はないが、少し考えてもらいたい。中毒例が一部の地域のみに集中していれば十分に筋が通るが、広い範囲で報告されている点に疑問が出る。

仮に突然変異を起こしていたとすれば、2003年冬〜2004年秋の間に、何らかの変異で有毒化し、既存種を遥かに上回る繁殖力を持ったスギヒラタケの菌が発生して、勢力図を塗り替えるほど繁殖したという事になる。

可能性は0とは言い切れないものの、あまり現実的ではないだろう。

もう一つは「元々から毒キノコだった」説。食べてから発症までの潜伏期間は他のキノコに比べてかなり遅く、健康体であれば発症することも少ない。

何よりスギヒラタケ=美味な食菌というイメージが定着していただけに、誰も食中毒の原因だと疑わなかったのだろう。ではなぜ2004年になって突然中毒者が相次いできたのか、という疑問が出てくる。

話しは少々キノコからズレるが、当時流行したSARS(サーズ)をご存じだろうか。SARSは主に中国などのアジアで猛威を振るった感染症の一種である。

これが大きな問題となっていた事をきっかけに、2003年10月から感染症法が改正されたが、その際に急性脳症が全数把握対象疾患に指定された。

つまり、変わったのはスギヒラタケではなく方式。急性脳症の報告が義務付けられたことにより、翌年(2004年)の秋になって初めてスギヒラタケと急性脳症の関連が明らかになったのではというものである。

その他にも採取地域の汚染、化学物質の付着、細菌・ウイルス、酸性雨によるアルミニウムの溶出など、様々な説が寄せられていたが、元々から毒キノコというのが最も有力である。いずれも仮説すぎず、明確には分かっていない。

余談

🍄本種は美しい白色から海外において「天使の翼(angel wing)」とも呼ばれている。例の事件やアレのことを思うと悪魔にしか思えないが。

🍄スギ林は殆どキノコが発生しない環境として知られ、スギ材が分解されにくいこと、スギと共生関係を持つキノコが少ないなどの理由がある。見られる種類は限られており、スギヒラタケは当時、スギ林に発生する代表的な食菌であったが、例の事件によって食菌の代表はスギエダタケ(食)に変わった。

🍄本種と同様、腎障害を背負うことで発症する食品に「スターフルーツ」というものがある。同じく脳症を引き起こす可能性があると言われるが、主な症状、発症までの潜伏期間などは異なる。近年になり原因物質(カラムボキシン)も判明している。ただ日本において中毒例は報告されておらず、腎機能がどうこうよりは多量に食べる方が問題なのかもしれない。


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