最終更新日:2016年12月15日
バライロウラベニイロガワリ(薔薇色裏紅色変、学名:Boletus rhodocarpus)とは、イグチ科ヤマドリタケ属に属するキノコ。2001年、高橋春樹氏によって新種発表され、美しいバラ色の形態が特徴となる。
イグチ科には毒キノコが少なく、あっても精々腹を壊す程度のものばかりだが、本種はその中でも飛び抜けて毒性が高く、イグチ科では珍しい猛毒キノコの一つである。
また、本種は「毒キノコは派手な色をしている」というありがちな迷信に当てはまるキノコの一つでもある。
特徴
夏〜秋にかけて、コメツガやシラビソなどの亜高山帯の針葉樹林に発生する。主に富士山など本州一部の高山帯や北海道など、発生環境は限られている。
傘は始め半球形、のちまんじゅう形→ほぼ平らに開いていく。表面は初め白色〜淡い灰褐色だが、のち赤色となり、暗褐色の細かい鱗片に覆われている。
管孔は黄色、孔口は幼菌時のみ黄色でのち赤色となる。変色性を持ち、傷つけるとすぐに青変する。
柄は硬く丈夫、上部がやや黄色で赤色の網目があり、下部は赤色の細粒に覆われ、柄の根元は白色の菌糸で覆われている。管孔と同様に傷つけると青変する。
肉は淡黄色で、特別な味や匂いはなく、空気に触れると青色に変色する。
胞子紋はオリーブ褐色。胞子は長楕円形〜楕円形、大きさは12〜14.1×5〜5.7μm程となる。
類似種
よく似たキノコではアメリカウラベニイロガワリ(食)、ヒイロウラベニイロガワリ(食毒不明)などが存在する。
アメリカウラベニイロガワリは本種ほど赤色ではなく、広葉樹林にも発生する点で区別は容易。
ヒイロウラベニイロガワリは上と同様、広葉樹林に発生し、傘に鱗片がなく、湿った場所では粘性がある点で区別できる。
毒成分・中毒症状など
上記に述べた通り猛毒。その高い毒性はドクヤマドリの比ではなく、たとえ少量でも命に関わる程の毒性とされる。
非常に強い毒性を持ちながらも未だ毒成分は不明のままだが、おそらくタンパク性毒成分によるものと思われる。いずれにせよ今後の研究が望まれるだろう。
症状は激しい嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸系中毒に加え、ほてり、発汗が生じることがある。ひどい時は脱水状態により死に至る危険性もある。
主に消化系に作用するので、毒キノコでは典型的な症状に思えるかもしれないが、その症状は極めて激しく、とある中毒記によれば胃が空っぽになるまで吐き続けたという。詳しくは後述。
中毒記
現在のところ2名の中毒者が記録されており、ここで紹介したいと思う。
中毒記その1
一つは大作晃一氏の「バライロウラベニイロガワリ中毒記」。これによるとたった一欠片ほどの生の肉を試食しただけで強烈な胃腸系の中毒を起こしたとされる。
胃がほぼ空になるまで何度も嘔吐を繰り返し、そこから胃の炎症・激痛を引き起こしたという。翌朝には回復したが、胃の炎症は3日ほど続いた。
中毒記その2
もう一つは北海道で起きた事例で、「日本の毒きのこ(フィールドベスト図鑑)」で紹介されてある。中毒したキノコは広葉樹の近くで採取したものなので、本種によるものではなく近縁種の可能性も否定できない。
このキノコを4分の1ほど食べたところ、数時間後に体がほてり、汗が出始めると胸のむかつき、吐き気が現れ、トイレや洗面所で数回吐き、その後は腹が殆ど空っぽになるまで下痢と嘔吐を繰り返し、やがて脱水状態になり病院へ入院した。
その病院で意識を失い、臨死体験をしたとされ、中毒者の如く「三途の川を見た」という。その三途の川に関して以下の事が書かれていた。
「水は清らかでゆったりと流れ、川幅は遥か遠くに岸が見えるほど広く、浅い底に敷き詰めた色とりどりの小石に反射した光がこの上なく美しく輝いていた。足を踏み入れ川底の石を拾おうとしたとき、後ろから呼び止められ、その声に目がさめた。」
……とのこと。
恐ろしいのはキノコを僅か4分の1しか食べていないことか。一本口にしていたら文字通り三途の川を通っていたかもしれない。中毒者は胃洗浄などの処置を受けて3日後に退院し、一週間後には全快している。
現状では死亡事故こそないものの、管口の赤いイグチには注意されたし。
余談
🍄和名の由来は本種の形態的な特徴から来たものである。ほぼ全体がバラ色、傘の裏も赤く、変色性がある。これらの特徴から名付けられたのが「バライロウラベニイロガワリ」。実に分かりやすい。このやたらと長い名前はしばしばネタにされることがある。
🍄本種は派手な色からは想像も付かないが、食べた方の記録によると味は普通に美味しいという。苦味や辛味に関しても特になかったとのことだ。
🍄本種と同様、猛毒のイグチとして「ミカワクロアミアシイグチ」が存在する。またしても長い名前。中毒者は報告されていないが毒性はかなり高いと推測され、虫さえも食べようとしない。症状は神経系に作用するとされる。
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