最終更新日:2023年8月23日
ミカワクロアミアシイグチ(三河黒網足猪口、学名:Tylopilus sp)とは、イグチ目イグチ科ニガイグチ属に分類されるキノコ。学名の「sp」は属までは分かるが、種小名までは分からないことを意味する。
中條長昭氏によって発見され、2002年に名古屋大学の研究グループにより猛毒キノコと判明し、新規の毒成分であるボレチンやイミン化合物を含むことが明らかになった。
通常、毒キノコは誰かが食べてから、初めて毒性が報告されることが殆どなので、中毒例もなく有毒と判明するケースは、実のところかなり珍しいのだ。
和名の「三河」とは、愛知県東部のことを指しており、三河地方(西尾市)で初めて発見されたことからこの名が付けられた。間違っても三河市なんてものは存在しないのでご注意願いたい。
特徴
初夏〜夏にかけて、ツバキ科のヒサカキの混じる雑木林の地上に発生する。発生量は少なく、国内で発生が確認されるのは主に愛知県。
しかし、のちに三重県、兵庫県神戸市でも発見され、その他に千葉県、埼玉県、岐阜県、大阪府でも確認された。
山口県、福岡県でも本種と思わしきキノコが見つかっているが、国外ではほぼ未記録。
傘は中型〜大型。表面の色は暗紫褐色〜黒紫褐色でフェルト状、乾燥すると細かくひび割れる。
管孔は柄に対して直生し、初め薄ねずみ色、しばらく経つと薄い小豆色となる。
柄は管孔と同色で、上下同大または下部がやや膨らみ、黒い網目模様が二重になっているのが他のイグチとは違う大きな特徴。
肉はねずみ色を帯びた白色で、ヒダ、肉は傷つけると赤色から紫色に変色し、やがて黒色となる。
胞子は長楕円形〜紡錘形で、表面は平滑。大きさは8.5〜12×4.5〜6μm程となる。
類似種
よく似たキノコとしてオオクロニガイグチ(不食)、モエギアミアシイグチ(毒)などがある。
オオクロニガイグチは色や変色性などで類似する特徴が多いものの、柄の網目模様がほとんど無いという点があり、じっくり見ればその違いは明らか。
モエギアミアシイグチは柄が黄色を帯びており、網目模様が二重ではない点や、本種と比べて柄が下部に向かって膨らむ点で区別できる。
毒成分
単離された毒成分はボレチン(N-у-グルタミルボレチン)および、イミン化合物(2-ブチル-1-アザシクロヘキセン イミニウム塩)の二つで、いずれも新規物質である。
動物実験では極めて強い毒性を示すことが報告されているが、これら毒素に関する詳細は多くの謎に包まれている。
中毒症状
本種による食中毒はいまだ報告されていないが、長沢栄史監修「日本の毒きのこ」では以下のことが書かれている。
「マウスに対して神経性の急性毒性を示し致死作用がある」
……とのこと。
マウスに対する致死量は不明。なぜなら毒素の量をいくら調整し投与しても確実にマウスが死んでしまい、明確な致死量が分からなかったからである。
そうした点もあって、かなり恐ろしい猛毒キノコと噂される。
人が食べた際の症状は不透明だが、実際にこのキノコを試食した方の記録がある。
その詳細はこちら↓
これによると、茹でてから口に入れた途端、舌が痺れてすぐに吐き出したという。生で齧って同様に舌が痺れた例も報告されている(当然吐き出した)。
イグチ類の有毒種は強毒でも熱に弱いタンパク性毒成分が主体ものが多く、下茹でするとかなり毒が弱まるが、本種は茹でても変わらず「舌が痺れる」ようだ。
よって憶測では本種の毒成分は熱に強く、食べると数分あれば症状が出てくると思われる。
現状まだ情報不足なので、今後の研究が望まれるだろう。
余談
🍄初めて本種が発見された愛知県は西部の「尾張地方」と東部の「三河地方」に分かれる。本種は三河で初めて発見されたため「ミカワ」と名が付いたが、もし尾張地方で初発見されていたら「オワリクロアミアシイグチ」になっていたのだろうか。
🍄本種はそのあまりに高い毒性からか、虫やナメクジさえも食べず、カビもあまり生えない。イグチ類に寄生しやすいヒポミケス菌でさえ中々寄せ付けないという。
従って一度発生した個体は老化するまでの間、長くその姿を保つ事となる。
🍄イグチ類はそもそも毒キノコが少ないグループで、加熱不十分や体質によって軽い中毒を起こす程度のものを除けば手の指で数えられるぐらいしかない。
かつて「イグチに毒菌なし」神話が存在したが、1995年に新種発表されたドクヤマドリによって崩壊。泣きの「猛毒菌なし神話」もミカワクロアミアシイグチの登場で粉々になってしまった様子。
🍄本種と同じく猛毒のイグチは他にバライロウラベニイロガワリが知られており、症状は本種とは異なり極めて激しい嘔吐、下痢などの胃腸系中毒が主である。
🍄同様に中毒者を出さず毒キノコと判明した種としてコテングタケモドキがあるが、その後普通に食中毒が発生していることもあって、あまり知られていないようだ。
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