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【猛毒】ニセクロハツの毒成分・中毒症状・見分け方など

最終更新日:2023年11月1日

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ニセクロハツ(偽黒初、学名:Russula subnigricans)とは、ベニタケ目ベニタケ科ベニタケ属に分類されるキノコ。和名は「ニセ」と付く通り、クロハツによく似ているのが由来となる。

殆どは強い毒を持たないベニタケ類だが、本種は中でも突出して毒性高く、致命的な猛毒キノコの一つとして有名。クロハツと誤食された例もあり、注意を要する。

特徴

夏〜秋にかけて、シイやカシなどの林の地上に発生する。日本以外では中国、台湾、韓国など、東アジアに広く分布する。

傘は初め中央が凹んだまんじゅう形、のち成熟すると浅いじょうご形となる。表面は灰褐色〜黒褐色でややスエード状。

ヒダは白ではなくクリーム色で、柄に対して直生〜やや垂生し、幅広く疎。
柄は傘と同色〜やや淡色で、硬く丈夫。

肉、ヒダは傷つけると赤に変色するが、これはクロハツとの区別に重要な特徴となる。

胞子はクロハツとほぼ同じで、類球形、表面は微細なイボと不完全な網目模様があり、大きさは7〜9×6〜7.5μm程となる。

類似種との見分け方

よく似たキノコとして、

・クロハツ

・クロハツモドキ

以上の二つがあり、特徴の違いや見分け方を述べていく。

クロハツは一目で見分けるのは難しいが、傷つけた際の変色性の違いで区別できる

ニセクロハツは傷つけると赤に変色する特徴があるが、クロハツの場合そこから数十分ほど経つと→黒色に変色するので、これによって区別可能。

クロハツモドキはヒダが非常に密で、クロハツと同じく→黒に変色する。ただしモドキの場合、瞬時に赤から黒色に変わるので、そこも把握しておこう。

なお、クロハツ、クロハツモドキは従来、食用として扱われていたが、残念ながら今では有毒として扱うのが常識である。結局食べられない…

クロハツは元々生食で中毒しやすい上、加熱しても消えない毒素がある。更には死亡例もあるという。

毒成分

ニセクロハツに含まれる毒素は「2-シクロプロペンカルボン酸」。

実にシンプルな構造をしており、生物が持つ毒素の中では極めて小さな分子量である。

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画像は2-シクロプロペンカルボン酸の構造式

この毒成分は重度の横紋筋融解症を引き起こすことで知られる。

横紋筋融解症とは、骨格筋の融解を起こし、ミオグロビンなどの筋細胞成分が血液中に流出する症状で、この流出したミオグロビンが心臓、腎臓などに障害を起こすのだ。

同様に毒成分を含むキノコとしてはTricholoma equestre(キシメジ・シモコシの近縁種、または同種)が存在する。

中毒症状

摂取すると数十分〜数時間で嘔吐や下痢など消化器系症状を起こす。

重度の症状が現れるのは摂取後18~24時間程とされ、縮瞳、呼吸困難、言語障害、背中の痛み、肩こり、四肢の痙攣、横紋筋溶解、血尿などを引き起こし、

最悪の場合は腎不全、心臓衰弱、多臓器不全により死に至る。致死量は2〜3本

症状の一つである血尿とは、横紋筋融解症によりミオグロビンが血液中に流れ、それを排出しようと尿と一緒に出るもので、ミオグロビン尿症とも呼ばれる。つまり実際に血が混じっている訳ではない。

中毒例

遡ること1954年、京都府でクロハツ似のキノコによる中毒死が報告されたが、中毒原因となったキノコの種類は分からず、当時まだ詳細不明の食中毒扱いだった。

しかし、1955年に本郷次雄氏によってニセクロハツが新種報告および命名され、クロハツとの関連が見え始める。

当時クロハツの近縁種に猛毒は無いと思われていたゆえ、学者の間でちょっとした話題になったことだろう。

3年後の1958年には大阪府でニセクロハツによる中毒例が2件発生、うち3名が死亡。1972年にも5名の中毒者が出てきたが、幸い死者はいなかった。

…それから長い間、新たな食中毒は報告されることなく、ニセクロハツの存在が忘れられていた頃、2005〜2007年に愛知、宮崎、大阪で相次いで中毒例が報告された。

中毒者は6名、このうち4名が死亡し、当時不明だった本種の毒成分の早急解明が求められる。

研究者たちは埼玉県、宮城県京都府でニセクロハツを採取して調べてみたところ、三つそれぞれ異なる毒成分を含むことが判明。

そのうち京都のニセクロハツから猛毒の「2-シクロプロペンカルボン酸」が単離され、ようやく本種の中毒原因と毒成分解明に辿り着いたのだ。

宮城・埼玉で採取されたキノコはニセクロハツの近縁種だったが、詳しく後述。

その後はしばらく中毒例が無かったものの、2018年9月に再び本種による食中毒が発生。

三重県に住む70代男性はクロハツと間違え採取したニセクロハツを夕食で食べたところ、嘔吐や下痢の症状を起こし、徐々に悪化して病院へ緊急搬送。

やがて意識不明の重体陥り、最終的には摂取後160時間に死亡が確認された。

更に2023年8月10日にも本種による食中毒が発生し、愛知県幸田町に住む30代男性がニセクロハツをカレーにして食べたところ翌朝、嘔吐と下痢をきたし病院に搬送。

重症化により意識を失い心停止の境地に陥ったが、幸い回復していき死は免れた。なお、今回男性は天然のキノコを食べたのが初めてだったという。運が悪すぎる…

国内での中毒例は1958〜2023年にかけて、累計8件と17名の中毒者が報告されており、死者は8名。つまり日本では死亡率ほぼ50%で、強力な毒性が伺える。

日本に限らず中国、台湾、韓国でもいくつか中毒者が出ているという。

ニセクロハツの偽物

始めに、見出しのワードに突っ込んではいけない。

実は本種にはクロハツやクロハツモドキとは別に、複数の近縁種があるという。

宮城、埼玉、京都で採取されたニセクロハツの毒成分がそれぞれ異なるのも、別種とする裏付けだろう。

本種は5種類に混同されているとされ、4種は偽物。本物は猛毒成分「2-シクロプロペンカルボン酸」含み、これこそが通称「真のニセクロハツ」なのだ。…真の…ニセ…?いや何でもない

そして偽物のうち一つはアカハニセクロハツ(仮称、学名:Russula sp)である。

本種とは違いヒダがやや赤みを帯びるのが特徴で、別名は「ニセニセクロハツ」もっと良いネーミングがあろうもん…

国内では今のところ、本物のニセクロハツは西日本にしか発見報告がない。2018年に三重県で中毒死した男性も元々は北陸出身で、ニセクロハツが無かった地域ゆえに当時クロハツを好んで食べていたのかもしれない。

でも、三重県には本当のニセクロハツがあった。それがこの悲劇を生んだのだろう。

まだ近縁種の情報は少なく、見分け方も十分に確立されていないので、今後の研究次第だろう。

余談

🍄宮崎県で採取されたニセクロハツ近縁種には毒成分としてルスフェリン類、ルスフェロール類、3-ヒドロキシバイキアインが単離されているが、京都、埼玉で採取されたニセクロハツおよび近縁種には含まれていない。

🍄埼玉のニセクロハツ近縁種には2-シクロプロペンカルボン酸とは異なる低分子の毒成分が含まれているが、詳細は不明。

🍄本種は元々、北米の一部地域でも見られるキノコとされていたが、のちに北米産はニセクロハツと異なる種と判明し、新たに「R. cantharellicola」の学名が与えられた。

🍄種小名である「subnigricans」はクロハツの学名「nigricans」に頭文字として「やや」「近い」を意味する「sub」という単語が用いられた形になっている。

つまりは学名も「クロハツ似」を意味するようだ。

 

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