Hydnellum peckii(和名なし、読み方:ヒドネルム・ペッキー)とは、イボタケ目マツバハリタケ科チャハリタケ属に属するキノコの一種。種小名の由来は不明。
和名はないが日本ではパナップタケと呼ばれる事もある。
生息地・分布
マツなどの針葉樹の地上に発生し、菌根を形成して散らばって生息する。主に北アメリカで一般的に見られる。
ヨーロッパにおいてはイタリア、ドイツ、スコットランドなどで発見されているという。
アジアでは2008年にイラン、そして2010年では韓国でも発見され、2019年にはオーストラリアでも発生が確認された。
日本でもそれらしきものが確認されているが、正式に本種と同定されていないため、日本では未記録となる。
特徴
このキノコ最大の特徴は間違いなく形態そのものである。1枚目の画像は既に成熟し、若い頃の特徴を失った姿。
では若い頃は一体どんな姿をしているのか。
それは・・・
これである
本体の色は白色で漏斗型、形は非常に変形しやすい。そして若く湿ったものは怪しげな赤い液滴を滲み出す。結果、このような姿になってしまうのだ。
この外見から「出血キノコ」「苺クリーム」「悪魔の歯」とも呼ばれる。
しかし成長するにつれ傘の色は赤い液滴によって茶色になり、成熟する頃には若い頃の特徴はなくなり、やや地味なキノコに落ち着くようだ。
傘の裏は針状になっており、そこから胞子を出す。
胞子紋は茶色で、胞子はほぼ球形。表面はいぼ状でサイズは5.0〜5.3×4.0〜4.7µm程となる。
類似種
実はよく似たキノコが日本に存在するという。
アカノシズクハリタケ(Hydnellum ferrugineum)で、本種と同じチャハリタケ属である。同様に赤い液滴を滲みだし、H.peckiiと間違われる可能性もある。
同属のニオイハリタケモドキ(H.caeruleum)も液滴を滲みだすことがあり、その時の姿はまるで青色版のH.peckiiのようだ。
含有成分
本種自体には毒成分は含まれていないが、代わりに以下の成分が発見された。
謎の赤い液滴にはアトロメンチン(アトロメンチン、2,5-ジヒドロキシ-3,6-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジオン)という物質を含む。
この物質は抗凝固薬、抗菌作用を持つことが分かっているという。
また、このキノコにはセシウムを吸収して蓄積する能力があり、スウェーデンの現地調査により真菌の菌糸体でセシウム137が発見された。
食毒
その恐ろしい姿から毒キノコを思わせるが、上記に述べた通り毒成分は含まれていない。
匂いはほのかな甘い香りがある。しかし味の方に関しては恐ろしいほど苦く、到底食用には出来ない。つまり、毒はないが不味くて食えない。
見た目こそぷっちょに似ていて美味しく見えないこともないが、当然ぷっちょではないし、食べられないものは食べられないのだ。
読み方
Hydnellum peckiiがあまり知られていなかった当時はカタカナ表記で「ハイドネリウム・ピッキー」と呼ばれていたが、この読み方は間違いである
実際の読み方は「ヒドネルム・ペッキー」の方が正しい。
しかし、人によってはヒドネルムを「ハイドネルム」や「ハイドネラム」と言ったり、ペッキーを「ペキイ」または「ペクキイ」と呼ばれることがあるので、正確にこれが正しいという読み方はない。
いずれにせよ普通にローマ字読みすれば「ハイドネリウム・ピッキー」なんて読み方にはならないのが分かるはずだ。
余談
🍄そもそもH.peckiiに限らず、ニオイハリタケ属のキノコは基本的にほぼ食不適である。ただ本種と同じ科のマツバハリタケ科には代表的な食菌として「コウタケ」や「クロカワ」などがあり、特にコウタケは松茸以上に香りのよいキノコとして重宝される。
🍄H.peckiiが蓄積しやすいというセシウムとは、原子力発電に使われるウランが分裂する際に発生するアルカリ金属。放射性物質の一つで、厳密には放射性セシウムと呼ばれ、放射線を出す能力(放射能) を持つという。
日本では福島原発事故で主にセシウム134、セシウム137など、大量の放射性物質がまき散らされたことで有名である。その後、福島県伊達市の松茸から食品基準を大幅に上回るセシウムが検出されたという。
セシウムは普段日常的に食べる食品にも微量ながら含まれており、セシウム中毒というのはないが、何年、何十年と長期的に多量のセシウム摂取し続けると人体に悪影響を及ぼす可能性があるという。
ただ摂取したセシウムは最終的には体外に排出されるため、普通に生活する分には影響はないと思われる。
そういう意味では、H.peckiiは長期的に食べ続けると人体に悪影響を及ぼす可能性のある毒キノコとも言えなくもない。味が恐ろしいので誰も食べるわけないが。
🍄これはもう余談の余談だが、H.peckiiの日本語版Wikipediaでは放射性セシウムを「重金属のセシウム」と表記されるが、そもそもセシウムは重金属ではなく「アルカリ金属」なのでお間違いなく。