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ニガクリタケの毒成分・中毒症状・中毒例など

最終更新日:2016年11月1日(画像はWikipediaより)

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ニガクリタケ(苦栗茸、学名:Hypholoma fasciculare)とは、ハラタケ目モエギタケ科クリタケ属に属するキノコ一種。有毒として知られ、和名の由来は食用のクリタケによく似ており、強い苦味を持つことから来ている。

季節を問わずほぼ年中見られ、真夏でも真冬でもお構いなしに生えてくる。

発生環境も幅が広く高地から低地、公園、庭、時に竹やぶなど、ありとあらゆる場所に発生し、日本では最も一般的に見られる毒キノコの一つである。

特徴

針葉樹林および広葉樹林の木材や切り株などに束生する。束生とはキノコ同士が根元で数〜数十本にくっつき、一つの大きな株として発生することである。

傘は始めは半球形〜丸山型で、のちまんじゅう形からほぼ平らに開く。表面は平滑、色は鮮黄色〜淡褐色で、湿った時はやや粘性を持つことがある。

ヒダは柄に対して湾生〜上生し、幅が狭く密。色は初め硫黄色、のちオリーブ緑色を帯び、やがて暗紫褐色となる。

柄は細く、傘とほぼ同色だが、時に下部が橙褐色である。表面は繊維状で、上部にクモの巣状のツバがあるが、失われやすい。

肉は黄色で、齧るとかなり強い苦味を持ち、時に舌が痺れるほど苦い場合もある。

類似種・見分け方

よく似たキノコとしてクリタケ、クリタケモドキ、ニガクリタケモドキなどの食菌が知られる。

クリタケやクリタケモドキとは傘やヒダの色などに違いがあるが、個体変異が大きく外見のみの判断はリクスを伴う。本種と違って苦味が無いので、確実に見分けるには味見をしてみることだ。

一度齧ると忘れられない程の酷い苦味なので、よほどの味覚障害でもない限り見分けが付くだろう。当然だが苦ければ吐き出すべし。まあ言われなくても本能的に吐くことになるが

ニガクリタケモドキは外見で判別するのは困難。本種との違いとしては束生しない、苦味がないという特徴がある。

最後に注意する点として、ニガクリタケの苦味は火を通すことで消えてしまうことだ。しかも毒性はそのままなので試食は生で齧ることが前提である。

毒成分

毒成分はファシキュロ−ルA〜F、ネマトリン(細胞毒)、ファシキュラーレリシン(溶血性タンパク)などを含み、これらは苦味の原因物質でもある。その他にムスカリン類を含む。

ファシキュロ−ルはトリテルペンの一種でマウス動物実験により、呼吸神経を麻痺させ死亡させることが報告されている。

中毒症状

摂取すると30分〜3時間程で症状が現われる。

激しい腹痛、嘔吐、下痢、悪寒などの胃腸系中毒が主だが、重症の場合は脱水症状、アシドーシス、痙攣、ショック、手足の麻痺をきたし、最悪の場合は肝腫大、黄疸などの肝障害、神経麻痺、腎不全により死に至る。

典型的な症状ではないが、見るもの全てが紫に見える色覚異常を起こすことがある。毒性は高く死亡例も報告されている。

中毒例

平成元年〜22年にかけて、中毒件数は10件、患者は19名が報告されており、そのうち1名は急性腎不全により死亡している。古くは三大誤食キノコに続いて中毒者の多いキノコであったが、ここ数十年では大幅に減少している。

2010年ではクリタケと誤ってニガクリタケが販売されるという事例があるが、その年に患者は報告されていない。もしやひっそりと誰かが中毒していた可能性が微粒子レベルで(ry

また、青森県では数あるキノコ中毒の中でも悲惨な事例が記録されており、ここに載せておくことにする。

1956年5月3日、青森に住む家族6人(父・母・子供4人)がこのキノコを採取して佃煮にして食べた。

すると食後6〜8時間後に激しい嘔吐、下痢、悪寒、痙攣、神経麻痺などの症状に苦しみ、やがて意識不明の重症に陥った。

摂食2日後には3人の子供(5歳、7歳、10歳)が死亡。13歳の長女は一時意識が回復し、症状は軽くなると思われていたが、腹部から首にかけて紫斑が現われ、摂食4日後に死亡。急死だったという。

38歳の母親は一時意識不明となるが4日後に回復し、46歳の父親は嘔吐、腹痛、下痢のみで20時間で回復した。

両親が助かったのはキノコを多く子供たちに食べさせたため、摂取量が少なかったからである。やさしい親心がこのような事態を招くなど、誰が予想するのだろうか。

本種の毒性

本種は一般的に猛毒キノコとして扱われているが、一部では疑問の声もある。上記に述べた青森県の件を除くと、それほど目立った中毒死は報告されていない。

もともと一か所に大量発生することが多いキノコで、重症まで至ったケースは沢山食べてしまったのが大半である。つまり総合的に見れば猛毒という程でもないのでは、というものだ。

また、本種は地域や発生環境によって毒性に大きな差異があるという。齧ると苦味の弱いものもあるが、ニガクリタケの毒成分=苦味なので、従ってその個体は毒性が低いことになる。

これに関してはいくつかの近縁種が混同している可能性があり、複数の種に独立したナラタケの件を考えるとおかしな話ではないだろう。

余談

🍄類似種のクリタケは栽培もされている優秀な食菌だが、海外では有毒として扱われており、微量ながら毒成分(ネマトリン、ネマトロン、ハイフォロミンA・Bなど)を含んでいる。必ず加熱してから食べるようにしたい。

🍄これらと同じように苦味の有無で食毒を見分けるキノコがある。例としてウラベニホテイシメジ(食)とクサウラベニタケ(毒)の二種だが、ニガクリタケなどとは反対に苦い方が食用である。ただ舌が痺れるような強烈な苦味ではない。

🍄話は少々キノコから逸れるが、人間を含めて動物には苦いものを嫌う習性がある。これは苦味を毒物と感じて避ける生存本能によるもので、子供にピーマンやゴーヤ嫌いが多い理由でもある。ニガクリタケが毒キノコなのは理に適ったことかもしれない。


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